競馬には「天皇賞」の名を冠したレースがあります。
春は京都競馬場・芝3200mで、秋は東京競馬場・芝2000mで一流馬がその栄誉を競います。国内で最も歴史の古いレースの一つであり、その名称になる前の前身のレースを含めると明治38年までさかのぼるそうです。
その名称の通り天皇陛下のご臨席を賜る場合があり、その際は天覧競馬と呼ばれます。
「天覧」というと、かの元巨人軍の長嶋茂雄さんが昭和34年の天覧試合でサヨナラホームランを打ったエピソードが思い出されますが、今日はそんな天覧競馬に寄せて綴ってみます。
2012年、天皇賞・秋。
7年ぶりの天覧競馬だった。
7年前は松永幹夫騎手の御する14番人気の牝馬・ヘヴンリーロマンスが勝って、人馬とも深々と貴賓席に頭を下げた。
それから7年。
自宅のテレビで観戦していた私は、どの騎手が勝ったらあの松永騎手のように絵になるだろうと、ぼんやり考えていた。
やはり、1番人気のフェノーメノを駆る関東の雄・蛯名騎手か。
カレンブラックヒルというパートナーを得て輝きを放つ気鋭の秋山騎手か。
それとも、サダムパテックとのコンビの天才、平成の盾男・武豊騎手か。
いや、ダークシャドウを御す元祖天才の血を引く福永騎手か。
ぼんやりそんなことを考えているうちに、ファンファーレは鳴った。
シルポートの大逃げに直線に向く前から場内は沸いていたが、最内をスルスルと駆け上げってきたのは12番枠のエイシンフラッシュだった。
鞍上は、ミルコ・デムーロ騎手。
ああ、そうだった。
イタリアダービーを5回勝つよりも日本ダービーを1回勝つ方が嬉しいとインタビューで答える男。
2011年3月、左腕に喪章を巻いてヴィクトワールピサを駆りドバイワールドカップを制して、震災と原発禍に沈んでいた日本に勇気を与えてくれたあの男。
ダービー馬を2年ぶりに蘇らせた陽気なイタリア人は、ウイニングランの後エイシンフラッシュから下馬。ひざまづいてヨーロッパ式の最敬礼をした。映画を見ているような、美しいワンシーン。
第156回、天皇賞・秋。
秋の中距離頂上決戦。
2017.10.29
ミルコ・デムーロ騎手。
出身のイタリアで4年連続のリーディングジョッキー(その年最も多くのレースを勝った騎手)に輝き、1999年から短期免許制度を利用して日本で騎乗していました。
2015年にJRAの通年騎手免許の試験にクリストフ・ルメール騎手とともに外国製のジョッキーとして初めて合格してからは、ルメール騎手と驚異的なペースで勝利を重ねていっています。
ここぞという大レースで見せる勝負強さと、勝利ジョッキーインタビューでの無邪気な子どものように陽気な笑顔に、いつも魅せられてしまいます。
2012年の天皇賞・秋はそんなデムーロ騎手の魅力が炸裂したレースでした。
2年前のダービーを制した後、12連敗と苦汁を味わっていたエイシンフラッシュを見事によみがえらせる騎乗。ゴール後はとびきりの笑顔でのウイニング・ラン。そして貴賓席に向かってヨーロッパ式の最敬礼。何をしても絵になる男。
そんな魅力あふれる好漢に惹かれるのは、私も同じような魅力を持っている「投影」だと思うのは、うがち過ぎでしょうか。
さて、週明けからはまた強い寒気が流れ込むようです。
昨日は一年で最も寒い節気の「大寒」でしたし、この寒さが味わえるのも今だけ、と思って楽しめるといいですね。
どうぞ、ごゆっくりお過ごしください。