花は白亜紀に初めて咲いたんだよ。
真冬のような冷たい風に咲く山茶花をしげしげとながめる私に、最近恐竜熱が再燃している息子が教えてくれた。
白亜紀というと、今から1億5千万年ほど前から6千5百万年前。
大型恐竜や多様な種類の恐竜が登場し、隆盛を誇った時代だ。
ティラノサウルスやトリケラトプスといった知名度の高いおなじみの恐竜たちも、この時代の動物だ。
恐竜たちの黎明期の「三畳紀」、そして進化を遂げた「ジュラ紀」を経て、この「白亜紀」に至り、そして約6千5百万年前に、彼らは地上から姿を消した。
その間、約1億年。
息子と同じように恐竜少年だった私も、幼い頃によくその単語を聞いてはワクワクしたものだった。
それまで裸子植物しか存在しなかった植物は、白亜紀に初めて花を咲かせる被子植物が生まれ、地上のいたるところを覆っていく。
そのおかげで、食糧が潤沢になった草食恐竜は大型化し、それに続いて彼らを食糧としていた肉食恐竜が大型化していく。
人間の「紀元」と呼ばれる時間が、ようやく二千年。
文明が興ってからとしても、約五千年。
1億年以上前という途方もない悠久の時の流れに、少年だった私は想いを馳せたものだった。
いつかこの山茶花を眺めている瞬間もまた、悠久の時の流れのなかに呑みこまれて、露と消えるときがくるのだろうか。
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自転車を乗りこなし移動が早くなった息子と娘を小走りに追いかけていると、白梅がだいぶ咲いてきたことに目と足が止まる。
早く行こうよとせかされながら、少し待ってくれと言ってスマホを取りだしてシャッターを切る。
桜の花もそうなのだが、やはり淡い色の花には、青い空の背景がよく似合う。
構図をいろいろ考えながら、シャッターを切ってみる。
この花びらの後ろの赤色が、ほんとうに美しい。
こうして接写すると、ひとつひとつの花の表情が違うようだ。
この花は凛としながらも、寂しさを内面に包含しながら。
それもすべて自分の内面の投影に過ぎないのだが。
千年梅のほどの昔に詠まれた悲しい歌に心を寄せる。
東風吹かば にほひをこせよ 梅の花
主なきとて 春な忘れそ
梅の花が好きだったといわれる、道真公。
大宰府の地で眺めた梅の花の色は、今日の梅の花の色と同じだったのだろうか。
また私が梅の花を見上げるときは、どんな心境で眺めているのだろうか。
一向に歩いてこないぼんやりした私にしびれを切らして、息子は自転車に乗ったままぎこちないUターンをして苦情を言いに寄ってきた。
風は、まだ冷たい。