「アタシ、また今日も遅刻ギリギリだったんんですよ、もう毎日で疲れちゃいますよ」
「だからそんなに寝癖がついてるのか」
「ついてないです!…でも、ほんとに今日は起きた瞬間、ダメかと思いましたよ。何でアラームが止まってるんでしょうね」
「そりゃ、自分で止めたんだろうよ」
「止めた記憶全くないんですよーでも昨日の夜に何かいじった記憶もないし。何なんでしょうね、これ。ほんとに」
「うん?意識的にせよ、無意識的にせよ、そのギリギリを感じたいんじゃない?」
「いやいやいや、そんなことないです。普通に間に合うように来たいんですよ」
「いや、やっぱりさ、ピーチ姫はさらわれないといけないしさ。そうしないとゲームが始まらないっていうか」
「は?ピーチ姫って何ですか?それ?」
「あぁ、ごめんごめん、ええと、そうだな、その机の上にあるお菓子の缶があるじゃん?好きやん?」
「はぁ、このディズニーのチョコクランチの缶ですか?この前の週末にまた行ってきましたけど、それが何か?」
「いや、どのアトラクションもさ、水がかかったり、ジェットコースターの速さにドキドキしたり、お化け屋敷で怖い思いしたり、みんな自ら進んでするわけでしょ?そんで、アトラクションが終わって、『あー、無事に帰ってきた』ってホッとするわけじゃん?その感情の振れ幅が、生きてるって感じなんだと思うよ」
「いや、アタシはパレードとイッツアスモールワールドが好きなんですけど…」
「あ、そう…それなら長島スパーランドのホワイトドラゴンでもいいや」
「はぁ…」
「ま、まぁ、『あぁ、間に合った』っていう感情を味わいたいから、自らギリギリになるように無意識的にいろいろ仕掛けてるって考えると、なんか面白くない?」
「えー?そんなのイヤですよ、だってもし遅刻しちゃったら、怒られるじゃないですかぁ」
「遅刻したらしたで、『遅刻したときの感情を感じたかった』とも思えるよね」
「えー、それはもっとイヤです…」
「遅刻しても、怒られても、恥ずかしくても、それでも結局大丈夫だった、ってことを再確認したいのかもね」
「でも、遅刻が続いたら全然大丈夫じゃない…」
「そうかな?」
「そうです!」
「じゃあ、ほんとに遅刻しちゃうときは、その思い込みを外したいときなのかもしれないね」
「えー、そうなんですかねー?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。目に見えないし、誰にも証明できないことだもの、ほんとのところは分からないよね」
「まあ、そうですね」
「でも自分が選んでいる、と考えると、なかなか遅刻も味わい深いよね」
「いや、全然味わい深くないです!やっぱり遅刻はイヤです!」
「まあ、そうだよね」
「今日は確実にアラームを設定して寝ます!」
「せやね。でも明日は日曜日やね」
「あ、やっぱり設定しないで寝ます」
「うん、それが一番気持ちいいのかもね」