「また来たんですか。そんなに暇なんですか」
「あぁ、暇なんだよ。だから相手してくれ」
「暇っていうより、寂しいんですよね」
「あぁ、そうだよ。寂しいんだよ」
「否定しないんですね…まぁ、アタシも寂しいクチですけど」
「あぁ、そうだろうな。類は何とやら、だからな」
「否定してくださいよ。そういえば、前回の遅刻の話の続きなんですけど」
「うん」
「アタシ、最近がんばってるんです。早く来れるようになったんですよ」
「ほう、それはすごい」
「でしょ?今日なんて15分も早く来れたんですよ」
「だから目やにが付いて眠そうなのか」
「目やには付いてないです!…でも、確かに1時間以上も早起きしたんで、眠いです。なんで1時間も早く起きたのに、15分しか早く来れないのかは謎なんですが」
「眠いのは、あかんやん。今日うっかり夜更かししちゃったら、明日はリバウンドで3時間くらい遅刻かもな…」
「いえ、絶対しないです!…でも、最近夜更かししてるのに、早起きになっちゃってますね…だから日中眠いんです」
「うーん、それで続けられるのならいいんだけど、そうでないなら、どこかで無理した反動がきちゃうかもしれないね」
「えー、じゃあ、どうしたらいいんですか?」
「いやいや、別にどうもしなくてもいいと思うよ。ただ、ネガティブな動機って、なかなか長続きしないよね。僕も『痩せなきゃ!』『運動不足はよくない!』って思って再開したランニングは、案の定4日坊主になっちゃったし」
「3日じゃないところに、どうでもいいような負けず嫌いが発動してますね。見かけによらず、ほんとプライド高いんだから」
「うるさい」
「自分で分かってるけど隠しておきたいところを突かれると、人は『怒り』を使うことが多いって、私のばあちゃんが言ってましたよ」
「ますますうるさい」
「アハハ、やっぱり図星なんだ」
「もう戻る」
「アハハ、まあまあ。でも、アタシ寝るの好きなんで、眠いのは辛いんですよ。どうにかならないですかね」
「うーん、期間限定で終わる話なら、眠くても我慢してもいいと思うんだけどね。テストとか、試験とか」
「テストと試験はいっしょですよ」
「うるさい。もう戻る」
「まあまあ。そうなんですよ、この眠気をずっと続けるのは辛いんですよ」
「まあ、睡眠負債という恐ろしげな言葉もあるしね。ほんもののショートスリーパーでない限り、寝不足は辛いよ。僕も寝不足は絶対ダメだもん」
「ですよねー。どうしたもんですかね」
「うーん、15分早く来て、何してるの?」
「仕事する気にもならなくて、ぼーっとしてます」
「あぁ、早朝の仕事は『沼』だから、気を付けた方がいいよ」
「ヌマ?」
「ああ、アイドルの追っかけみたいなもんだよ。気付いたときにはズブズブで抜け出せない」
「はぁ…」
「はかどるんだよ、早朝の仕事って。電話も問い合わせもないし」
「電話も問い合わせはいっしょですよ」
「うるさい。そんで、なまじはかどるから、どんどん来る時間が早くなって、無理しちゃう」
「体験者は語る、ですか?」
「あぁ、仕事をこなすのが楽しくて仕方ないからいいんだけど、そうじゃないなら、どこかで無理してる反動がきちゃう。僕はそうだった。
だから、
『その選択は、永遠に続けられるくらい、自分にとって無理がないか?』
『その行動を重ねると、喜びが満たされる感覚があるか?』
『最後の出社日になっても、その行動をやるか?』
っていう問いかけは、大事かなぁ」
「へぇー。そんなもんなんですかね」
「そうなの。まぁ、そんなこと考えなくても、その15分の時間を自分の喜びのために使うなら、何をするか?を考えた方が、楽しくて続くのかもしれない」
「うーん、何をしよう」
「何でもいいと思うんだよね。自分だけのためにコーヒーを丁寧に淹れるでも、好きな動画を観るでも、ブログ書くでも、ヨガをするでも。その喜びのためだったら、続けられるような気がする」
「うーん、そっか。何しようかなぁ」
「ちなみに僕は、毎朝、誰もいない会議室でコックリさんを呼んでる」
「絶対嘘だ」