大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

次の連休まで、アタシは何を楽しみに生きればいいんですか。と彼女は言った。

「終わっちゃいましたね」

「何が」

「決まってるじゃないですか、10連休ですよ」

「ああ、そういえばそうだな。また通常運転が始まったってことだ」

「令和って、ずっとお休みが続く幸せな時代じゃないんですか?もうほんと、思ってたんとちがう…」

「ちょっと何言ってるか分からない」

「もう!共感力なさすぎです!それより、次の連休まで、アタシは何を楽しみに生きればいいんですか?」

「何だろうね?まあいい季節になってきたから、やっぱりこの時期しかできない楽しみかなぁ。アウトドアとか」

「いや、アタシ、アウトドアそんなにしないんです」

「あ、そう。それじゃ、なおさらいいかもね」

「えー、なんでですか?めんどくさくないですか?」

「コンフォートゾーンを抜けると、世界が広がるから」

「何ですか、その昨日の酒のツマミみたいな名前は」

「コーンビーフか?コーンサラダか?その微妙なボケ方はやめてくれ。『コ』と『ン』くらいしか合ってないぞ…そうじゃなくて、コンフォートゾーン。簡単に言うと、今の自分にとって心地のいい領域のこと。 人の脳は基本的に変化を嫌うから、安心・安全を保つために、無意識にそのコンフォートゾーンの中で生きるようになっているらしい」

「へー」

「何で人間の脳が変化を嫌うのかって、不思議だよね。遥か太古の昔に、それこそ野生の大型肉食獣やら、危険な道やら、大きな天候の変化とか、命の危機に関わるようなことを事前に察知するために、『いつもと違う』ことを不快に感じるように刷り込まれているんじゃないかなぁ、と勝手に想像してるんだけど、どうかなぁ」

「あー、なるほど。身の回りに命の危険がゴロゴロいる世界なら、いろんなレーダーが発達しそうですもんね」

「そうそう。小さなネズミなのか、何なのか分からないけど、ヒトの祖先がそんな時代を生き延びてきたから、いまの令和の時代があると思うと、なかなか感慨深いよね」

「アタシ、ネズミキライです」

「マウスとかテンジクネズミなら可愛いじゃん」

「テンジクネズミ?」

「俗に言うモルモットのこと」

「あぁ、モルちゃんなら好きです」

「そう、モルちゃん。モルちゃんは、天竺から来たネズミらしいよ。…って、話が逸れたけど、コンフォートゾーンを一度抜けると、その範囲が広がるんだ。より広い範囲のことをコンフォート=快適に感じられるようになる。そうすると、どんな状況でも豊かさや幸せを感じられやすくなる」

「ふーん」

「いつでも、どこでも、だれとでも、なにをしていても幸せな自分になれる」

「えー、ほんとですかぁ?…嘘くさいです。なんか、イソップ寓話で、高くて取れないブドウを『あのブドウを酸っぱいんだ』ってうそぶくキツネみたいじゃないですか?」

「んー、そうとも言えるけど、そうだなぁ、たとえばどこかに泊まるとして、一泊〇〇万円もするラグジュアリーなホテルで豊かさを感じられて、見知らぬ人と寝泊まりするゲストハウスでも楽しく過ごせて、何なら車中泊でも星空をワクワクしちゃうえる人なら、どんな旅でも楽しめそうじゃない?」

「うーん、たしかに」

「ラグジュアリーなホテルじゃなきゃイヤ!だとめっちゃ旅に制限付きそうだし、逆に上質な空間を知らないのも、また寂しいよね」

「まぁ、そうかもしれないですね」

「だいじなのは、『選べる』ってことなのかもね。あらゆることを心地よく感じられるようになると、豊かさの『閾値』が下がって、何でも豊かさ、幸せを感じられるようになる。反対にコンフォートゾーンが狭いと、その範囲を守ることに必死になったり、その範囲の外にいる人を批判したくなったりして葛藤を抱えることになったりする」

「『生き血』?」

「いや、『閾値』」

「ふーん、そんなもんかぁ」

「だから、ちょっとエネルギー使って、自分のコンフォートゾーンに出てみると、とっても世界が広がるかもよ。ヒントは、それをやっている人を見たときに、『バカじゃないの?』、『疲れるだけじゃん』、『よくやるわ』みたいな感想を覚えたもの、かなぁ」

「あー、ありますね。なんかニュースとかネットとかで見てて、なんかムカついたり、心がざわつく感じがするやつ」

「それそれ」

「えー、いやだ。めんどくさいし」

「まぁ、誰も強制しないけど、退屈してるならやってみる価値はあるんじゃない?」

「うーん、考えときます。でもアウトドアはちょっとパスかなぁ…」

「別にインドアでも、今までやってなかったことや、お久しぶりのこととかあるじゃん?」

「インドアかぁ…」

「インドアってなんだろうね?ボウリングはインドアなんかな?」

「あー、ボウリングなんて全然やってないです」

「あとは何だろう?UNOとかのカードゲーム?人生ゲーム?」

「うわ、それ懐かしい…カラオケとかもいいですね」

「歌はいいね。歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。そう思わないかい?碇シンジ君」

「誰がシンジ君やねん!でも歌、いいですねぇ、それを楽しみに生きることにしようかな」

「おぉ、じゃあ今度一緒に行こうか」

「行きましょう!行きましょう!」

「うん、行こう!一緒に行って、それぞれでヒトカラして、受付で『楽しかったね!じゃ!』って言って解散ね」

「なんでわざわざヒトカラするのに、二人で行く必要があるんですか!」