「現代の魔法使い」と称される、落合陽一さんの「日本進化論」(SB新書)を読んだので、その書評を。
本書は落合陽一さんと現・衆議院議員の小泉進次郎さんの共同企画で開催された、「平成最後の夏期講習」という2018年7月にニコニコ動画の生放送番組の内容と、その場で展開された議論をベースになっている。
その議論の前提として、現在の日本の抱える社会問題の根本原因には、少子高齢化とそれにともなう労働人口の減少にあるとし、その課題を解決するためのテクノロジーの導入が必須であると著者は考えている。
そのために「テクノロジー(technology)によって何が可能になるか」という議論を、政治(politics)の議論の中で考えていくことが必要、というポリテックという概念が重要であると述べている。
そうした前提のもとに展開される、「高齢者」、「子ども」、「働き方」、「財政」、「スポーツ・健康」、「教育・コミュニケーション」の各々の議論は、どれも非常に興味深く、読みふけってしまった。
どの議論も、困難な状況と問題を抱えながら、それでも著者はテクノロジーもたらすポジティブな未来を信じて、粘り強い議論を重ねている。
繰り返し本文を通してお伝えしてきましたが、日本社会はポリテックをテコに課題解決できる余地が数多くあります。ポリテックをカギにポジティブな未来像となるようなビジョンを構想し、それを伝えていくことは僕たちにとって最大の課題でもあります。
落合陽一さん著「日本進化論」 p.232
そして、その議論とは、遠いどこかの天才たちの机上の話しではなく、いま私が暮らす日本で起きていることの議論なのだ。
これは、どんな素晴らしいビジネス書も、あるいはセミナーといったものもそうなのだが、「いかにその内容を、自分の実生活に落とし込むか」ということが最も肝要である。
著者自身も、今後個人が備えるべき視点について語っている。
そうならないために個人が備えるべきは、今までの常識+固定観念にとらわれない柔軟でフラットな視点です。これは、「平成最後の夏期講習」でディスカッションする際に僕が提示したルールでもあります。頭ごなしに否定するのではなく、相手がなぜそのように考えたのかまで思考が及ばなければ、向かうべき方角について議論できません。そのためには、どれほど非常識で受け入れ難い意見であっても、それが誰のものであっても、一度は飲み込むことです。イノベーションはいつだって、常識を疑うことからはじまります。
同上 p.233
そうなのだ。
どんな天下国家を論じようとも、 まずは自分のできることから、なのだ。
そして、それは「相手がなぜそう考えたのか、思考をめぐらせてみる」という小さな小さな点からはじまるかもしれない。
そんなことを考えさせられる、刺激的な議論に満ちた一冊だった。