どうも朝から不思議な日だった。
家を出たときは泣き出しそうな薄曇りの空のはずだった。
それが、午前中に外を出てみると、気持ちいくらいの青空が広がっていた。
けれど、地面が濡れていた。
誰かが水を撒いたのかと思ったが、木の葉に残る足跡に、雨が幻でなかったことを知った。
お昼に、SNSで大切な方が名古屋に来ていることを知った。
風邪から来ているのか、単なる疲れなのかよく分からない頭痛と腰痛で気が滅入っていたが、それを見た瞬間からそこに行くための段取りを考え始める。
つくづく、体調とは現金なものだ。
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仕事を放り投げて、脱兎のごとく名古屋駅に向かう。
すでに夕焼けも通り越してどっぷりと暮れた夕闇に、秋の日の短さを想う。
遅々として進まぬ幹線道路の渋滞に、気ばかりが焦る。
一つ、また一つと各駅停車よろしく赤信号に捕まる。
ナビの予定時刻は、設定したときの倍近くは遅れている。
こころは、すでに名古屋駅の地下にいるはずなのに、どうしたことだ。
そのこころとからだのギャップと、思い出したようにぶり返した腰痛に苛まれながらも、ブレーキとアクセルを繰り返す。
あと、少し。
あの信号を曲がれば、駐車場だ。
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車を降りるとき、今日は背広を持ってきていないことに気づく。
いま着ている作業服を脱げば、半袖だ。
どちらも場にそぐわないような気がしたが、どうせすぐに帰るのだからと気にしないことにした。
風のように連絡通路を走り、エスカレーターに乗る。
すぐにその遅さに耐えきれなくなって、一階から階段で降りる。
変わらない笑顔が、そこにあった。
いくつか他愛のない言葉を交わした。
優柔不断な私は、一度決めた商品を変更して、包み直してもらったりした。
ほんの15分かそこら。
けれどエスカレーターを上がる私は、その言葉を背中で聞きながら、今日、ここに来てよかったと思った。
ありがとう、という言葉。
エスカレーターの動きは、こんなにも速かったのかと訝しがる。
もっとゆっくり上がってもいいのに。
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地図と方角が読めない私は、何も考えずに駐車場から出て看板の矢印に従っていると、駅西に出た。
雑多でアングラな香りがしていたあの街並みは、リニア開通の再開発のお陰か、小ぎれいな看板がたくさん出ていた。
10年以上前、仕事上がりの真夜中に度々来ていた中華料理屋を見た。
あの当時、よく頼んでいたラーメンとチャーハンと餃子とビールの4点セットを思い出す。
さすがに、いま食べたら酷く胸焼けがするのだろうなと思った。
このまま30分程走らせれば、故郷だ。
いっそのこと、墓参りにでも寄ろうかと思ったが、こんな夜に行く阿呆もいるまいと思い直して、大人しく帰ることにした。
戻ってきた駅前は、相変わらず渋滞して混んでいた。
赤信号で動かない車の中で、私は助手席の成果物をずっと眺めていた。