気付けば、朝夕の風はコートが欲しくなるくらいに冷たくなってきた。
色づいた葉も少しずつ落ち始めて、いよいよ晩秋である。
そんな晩秋の夜、刈谷市の「魚屋ごんべえ」さんを訪れた。
思い返せば、前回は9月に友人のお祝いに同席させて頂いていた。
あのときは、残暑から秋の訪れを感じる夜だった。
それが、立冬も過ぎたとは、何と季節の移ろいの儚いことか。
車を走らせ、この温かな灯りのもとへ。
「魚のうまい店」ののぼりに、その通りと頷く。
入口に掲げられたメニュー表の前で足が止まる。
あいなめ、黒鯛、根ほっけ、あん肝、カキフライ、芝えび…秋も深まり、寒くなってくると食材が豊富になって、見ているだけで楽しい。
このメニュー表を眺めているだけで、心躍り時間が過ぎていくようだ。
とはいえ、外はもう晩秋の冷えこみで寒いので、ほどほどにして店内に入り、カウンターに座る。
おしぼりの温かさが、今日一日の労をやさしく溶かしてくれる。
大将と挨拶をして、他愛もない会話をしながら、先ほどまで眺めていたメニュー表をまた開く。
今日は芝えびと安納芋が、いいのが入っているとのこと。
少し悩んだ末に、後者をお願いする。
安納芋のポテサラ。
しっかりとしながらも、やさしい甘味が、疲れを癒してくれる。
秋が深まりと冷え込みが、この染みるような甘味を運んできてくれた。
ノンアルコールビールを舐めながら、その心地よい甘さに癒される時間が流れていく。
サバ塩焼きと豚汁定食。
具だくさんの豚汁と、脂ののったサバ塩焼き。
結局いつもこれを頼んでしまうが、いつも日本人に生まれてよかったと思わされる。
手の空いた大将と近況をぼちぼち話しながら、今日一日の疲れが流れいくのを感じた。
=
季節の移ろいを感じるには、食材に目を向けるのが一番だ。
そして、美味しいものは人を幸せにする。
もちろん、それはそうなのだが、それに加えて「人」に会いに行くことが、私の中で大切なのだろうと思う。
「何」を食べたいか、よりも「誰」の料理を食べたいか、なのかもしれない。
秋の深まりの中にも、相変わらず美味しい大将の味が楽しめた晩秋の夜。
下弦の月を見ながら帰る道は、ずいぶんと空いていた。