20世紀に生きたアメリカの比較神話学者であるジョーゼフ・キャンベル。
彼は、世界各地の神話や伝承には共通する物語の原型があると指摘し、それを「英雄の旅(Heroes and the Monomyth)」と呼んだ。
それは、「平穏に暮らしていたある日、平凡(だと思っていた)な彼、あるいは彼女(=英雄)は天命に気付き、冒険の旅に出る。そこでさまざまな試練を経るとともに、かけがえのない仲間や師に会い、そしてついに最大の困難を克服する。そこで宝物を手に入れ、故郷に帰還して王国を築く。やがて、また新たな天命に気付き、また旅に出る」…という類型を取る。
さまざまな分類があるが、ここでは8つに分ける分類を見てみたい。
1.Calling(天命) :
主人公は何かに呼ばれたり、身の回りで大きな出来事が起きる。2.Commitment(旅の始まり) :
そこから何らかの決意を胸に秘め、旅に出ることを決意する。3.Threshold(境界線) :
Thresholdとは、敷居のこと。主人公は自分の設定した境界を超える何かで試される。4.Guardians(メンター) :
読んで字のごとく、主人公は旅の中で師となるメンターに出会う。5.Demon(悪魔) :
最も手ごわい悪魔が立ちはだかる。それは強力な怪物かもしないし、あるいは癒せない過去だったり、許せない弱い自分だったりするのかもしれない。6.Transformation(変容) :
やがて、主人公は今までの自分を越えて大きく変容するタイミングが来る。7.Complete the task(課題完了) :
主人公はさまざまなものの力を借りながら、ついに旅に出た目的を果たす。8.Return home(故郷へ帰る) :
旅の恩恵を手に、故郷へ帰還する。それは金銀財宝かもしれないし、新たな知識かもしれないし、あるいは自分の弱さを認められる強い心なのかもしれない。帰還した主人公は王国を築くが、それはまた新たなCallingの序曲となる。
「英雄の旅」の理論は多くの小説や映画の王道とされ、かのジョージ・ルーカスが「スターウォーズ」のストーリーの参考にしたとされる。
人生が旅の比喩なのか、それとも旅の比喩が人生なのか。
それは分からないが、旅と人生は似たものとして扱われる。
「英雄の旅」もまた、人生という旅そのものを表しているともいえる。
それは、人が成長していくプロセスとして見ることもできる。
「英雄の旅」に倣うならば、それぞれのフェーズで起こること、そして必要なものを俯瞰することができる。
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さて、人生の比喩の一つが旅であるならば、季節のめぐりもまた、その比喩の一つなのだろう。
今日は節分である。
旧暦において、一年の始まりとされる立春の前日であり、冬と春を分ける境界線。
「英雄の旅」に置き換えるならば、「3.Threshold」のあたりだろうか。
Thresholdとは、敷居のこと。
敷居をまたぐように、境界線を越える時が、季節においても、旅においても、そして人生においても起こる。
人は変化していくことに抵抗を覚えるもの。
大きな変化をもたらすときほど、大きな抵抗はつきもの。
季節のめぐりですら、「寒の戻り」というように、暖かくなってはまた寒さが戻り、少しずつ変容していくもの。
まずは、その抵抗を自覚することができれば、自らの「Thershold:境界線」がどのあたりにあるのかを知ることもできる。
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節分。
新しい世界の始まりの前、節目の日。
もし、これから何かが始まるのだとしたら。
その境界線とは、何だろう。
そして、それを越えることに抵抗を覚えるとしたら、どんな怖れを感じているのだろう。
少しそんなことを考えてみるのも、季節のめぐりとともに生きる喜びかもしれない。
神社の鳥居をくぐるのも、境界線を越えると言えるのかもしれない。