2月29日、閏日。
4年に一度しかない日と聞くと、なんだか得したような、それでいて特別な日のような気がする。
時間がそうであるように、日付も暦も人の造りし記号に過ぎない。
けれど、記号に意味を結び付けたがるのも、また人というものなのだろう。
それを、楽しめばいいのだと思う。
街の中心部は、どこかひっそりとしていた。
月末の土曜日だというのに、道行く人が少ない気がする。
重苦しい空気は、空模様だけではあるまい。
誰もがマスクをして俯き加減のように見える。
息子と娘は、後部座席で寝息を立てている。
いつも、墓参りに連れてくると、このあたりで寝入ってしまう。
おかげで、7年ほど一人暮らしをした街を、殊更ゆっくりと通る。
よく利用していたスーパーやクリーニング店は記憶のままの姿だったが、居酒屋やコンビニはもう見覚えのない施設に変わっていた。
墓参りに来ると、いつもナビは昔を思い出す道を指示してくれるようだ。
何度、この季節がめぐったのだろう。
静かに、手を合わせる。
少し雨がぱらついていたが、風がほとんどなくて助かった。
近くの川沿いの公園で、ピンク色を見つけて車を停めた。
今年初めての、桜。
いくら暖冬だったとはいえ、染井吉野にしてはさすがに時期が早すぎる気がするし、何より色があの淡い色合いよりも濃いようだ。
かといって、河津桜の濃さともまた違う風合いのようで。
陽光桜という品種もあるそうだが、どうだろうか。
水仙を見上げながら。
ぼんやりとした曇天が、今日の2月29日という幻のような日に、合っているような気がする。
しばし、息子と娘と花を愛でる。
すぐ隣で、はっとするような鮮やかに咲いていた花。
こちらは、寒緋桜だろうか。
淡いピンクとの対比が、美しい。
木の下の土をいじっていた娘が、落ちていた花を拾ってくる。
細部もまた、美しい。
青い花も。
この配色を見ると、もう春近し、という感がある。
それにしても、花を愛でることは、心を落ち着かせてくれる。
細部を見つめることは、癒しをもたらすことのように。
花は誇らず。
花は怖れず。
ただ咲く。