大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

最も偉大な自由は、最も強固な制約から生まれるのかも。と彼女は言った。

(ゴソゴソ…ゴソゴソ…)

「うわ、やべえ。切らしちゃったよ…しまったなぁ…」

「なんですか、朝イチから、心配してほしそうな一人芝居して。始業前くらい、ゆっくりNetflix観させてくださいよ」

「あぁ、心配してくれてありがとうよ。いや、切らしちゃってさ、例のブツ」

「は?」

「ほら、『マ』がつくやつで、白いヤツなんだけど」

「あぁ…残念ながら無いですよ、『マシュマロ』は」

「あー、そうそう、この甘くてふわふわなのが無いと、落ち着かなくて…って、違うよ。ほら、あるだろ、3文字で、いまみんなが欲しくてたまらないアレだよ、ア・レ」

「なんか卑猥な言い方しますね…でもアタシは持っていないですよ、『マウス』は。総務なら持ってるかも」

「そうか、じゃあ総務に余りがないか、聞いてみよう。無線のがあるといいなぁ…って、ちがーう!!『おかあさんといっしょ』みたなやり取りはもういいって」

「なんですか、めんどくさい男ですね、朝から」

「いや、午後から行くお客さんのとこが、マスク着けてないと入れないんだよ」

「はぁ?それなら行かなくてもいいんじゃないですか?」

「いや、そうはいかんだろう…でも、買おうと思っても買えないしな、いま」

「済ませようと思えば、メールやSkype、zoomとかで何とかなるんじゃないですか?いい機会なんじゃないですか、ハタラキカタカイカクってやつの」

「まぁ、そうなんだけどなぁ…」

「だいたい、お客さんとこ行くって行為に『仕事してる感』があるだけでしょ?」

「お…おぅ…今日も相変わらず厳しいな…まぁ、そうだな。このコロナショックで、だいぶ社会の在り方が変わっていくんだろうなぁ」

「ええ、いまあるだいたいの仕事って、本質的には要らないんですよ、きっと」

「たしかに、ほんとのことろは、そうかもしれないって、最近よく思うよ。でもさ、そうだとしてもさ、たとえば『不要不急の外出や集まりは控えましょう』ってことが言われて、これだけ経済が止まって大変なことになるわけじゃん?」

「まあ、そうですね」

「そう考えると、『無駄なこと』や『不要不急』にこそ、人は価値を見いだして、お金を払ってるんだなぁ…って思うわけよ」

「たしかにそうなんですけど、要はその選別が、今回の騒動で進んでいく感じですかね」

「そうだよなぁ…『ほんとうに無駄でいらいないもの』と、『人から見たら無駄かもしれないけれど価値があるもの』の線引きなのかね」

「ええ、そんなかんじ」

「今回の騒動で改めて、自分が大切だと思うお店とかサービスに、時間とお金を使いたいなぁ…って思うよ、やっぱり」

「ま、アタシの場合は、AmazonプライムとNetflixさえあれば生きていけるんで、そういうのはどっちでもいいっす」

「お、おぅ…ドライやね…ドライといえば、ヨーロッパもひどいことになってるよな。なんだかんだ言いながら、あっという間にEUは入域制限かけられたみたいだし」

「そうなんですか。海外でも大騒ぎなんですね」

「ああ、2週間くらい前にトイレットペーパーがなくて葉っぱを探したけど、まさか外国でも同じことが起こるなんてなぁ…」

「結局のところ、同じニンゲンですもの、そんなに行動は変わらないのかもしれないです」

「それにしても、フランスなんか、今日から15日間の外出禁止令だってさ。フランス行く予定あるなら、気を付けておいた方がいいぞ」

「いや、行かないんで大丈夫っす…」

「でもさ、あれだけ自由を愛する国が、最も大胆な封じ込め策に出るとは、なんなんだろうな」

「まあ、あれじゃないですか。最も偉大な自由は、最も強固な制約から生まれるのかも」

「たしかになぁ…自由と制約って、一番近いところにあるのかもしれないな」

「ほら、どんな状況でも、人は自由を感じられるじゃないですか。何も制約がない状態では、自由って感じられないと思うんですよね」

「おぉ、哲学的だな…」

「まあ、前の彼氏がやたら束縛してくる輩だったんで。それを経験すると、どんな状況でも自由を感じられますよね」

「俺が昔、喘息持ちだったから、息を吸える自由をありがたいと感じるようなものか」

「あれ、喘息持ちだったんですか」

「おう、あれはツラいぞ。毎晩、夜中じゅう、寝れないもんな」

「アタシも毎晩毎晩、AmazonとNetflixが寝かしてくれなくて辛いです」

「それは違うと思うぞ」