滋賀県は琵琶湖の湖西、大津市。
かの有名な延暦寺比叡山もある、その大きな湖を見下ろす山中に、ブルーベリーの実る丘がある。
37年前、一人の女性がブルーベリーの苗木を植えて、無農薬栽培を始められた。
農薬全盛のその時代、そして当時はあまり認知度の高くなかった、その小さくて黒い果実を育てていくのに、数多くのご苦労があったかと思う。
それから時が流れ、いまではそのブルーベリーをはじめとした数々のジャム、そして生産者の顔の見える素材を使ったレストランが、人のつながりを生み、たくさんの笑顔を生んできた。
私も、そのつながりの中で、笑顔を与えられてきた一人である。
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紀伊國屋さんの味は、どこかに爽やかさと優しさが宿っている。
それは、あの琵琶湖を望む農園の空気と、そこで働くスタッフの方々の笑顔と、無関係ではないように思う。
眼下に琵琶湖を見下ろす絶景。
たわわに実る、黒くてまんまるの実。
とびきりの大きな実を見せあい、こぼれる笑顔。
草いきれの中、元気に飛ぶ蜂や虫たち。
とびきりの笑顔でサーブされる、美しい一皿。
あの丘で体験することすべてが、ジャムに、そしてパンに宿っているように思う。
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外出や移動の制限というのは、ことのほか辛いものだ。
人にとって、人に会いに行くというのは、根源的な欲求なのだと思い知らされる。
それでも。
それでも、そんな「いま」でも、紀伊國屋さんを味わうことができる。
いま、この大変なときでも、
ジャムを炊いている方がいる。
パンを焼いている方がいる。
一つ一つの商品を、丁寧に梱包している方がいる。
そして、それを届けてくださる方がいる。
その方々のおかげで、この絶品のジャムとパンを楽しませて頂くことができる。
「いま」だからこそ、味わえる味が、ある。
「いま」しか、味わえない味が、ある。
あの暑い夏の陽射しの中、黒く輝くブルーベリーの実を、思い浮かべながら。
その味が、自粛に疲れた心を、癒してくれる。
また、あのブルーベリーの実る丘から、琵琶湖を眺めるのを楽しみに。
そのジャムとパンの味に癒されながら、その日を楽しみに。