大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

マイ・ライフワーク・ストーリー 2020.5.2

一歩。

また、一歩と、踏み出す。

遥か彼方に見えたあの景色は、
気付けばもう眼前を通り過ぎていく。

私は、また顔を上げて前を見る。

今度は、あの景色に向かって。

左足を、前へと踏み出す。

いつしか下半身は熱を帯び、
背中に、腕に、汗が吹き出てくるのを感じる。

一つ、大きく深呼吸をして、息をつなぐ。

苦しそうに大きな息遣いをした誰かが、
私を追い越していく。

あれは、いつかの私だったのだろうか。

何を、背負っていたのだろう。

母親と手を繋いだ幼子を、
私は追い越していく。

少し、寂しそうに見えた、その小さな背中。

あれは、いつの私だったのだろう。

私は、歩みをやめない。

左足、右足、左足、右足…

一歩、また一歩と同じリズムで。

そのリズムは、

心の臓が刻むビートにも似ていた。

沿道で、手を振る人がいる。

笑っている人がいる。

愛を、向けてくれる人がいる。

私は、彼らに笑顔を返す。

あれは、父だったのか、それとも母だったのか。

気付けば、遠いところに来ていた。

彼らが、私をここまで運んでくれた。

接地する右足のかかとが、地面を噛む。

親指が、地面を蹴る。

左足が、地に着く。

そのリズム、その走り、その息遣いは、誰のものでもない。

わたし、自身のものだ。

父と、母と。

そして、有縁の人たちに。

与えられたそれを、私は日々紡いでいく。

光がやってくる。闇が去っていく。

雨が降ってくる。陽が去っていく。

鬱がやってくる。喜びが去っていく。

私はどこへも行けない。

私はどこにも行かない。

走ることは、書くことに似ている。

それは、怖れることであり、

呼吸することであり、

慄くことであり、

ビートを刻むことであり、

生きることであり、

愛すること。

私は、走る。

私は、生きる。

わたしは、書く。

 

2020年5月2日

大嵜 直人