今日はKADOKAWA(アスキーメディアワークス)出版、飯尾淳子さん・飯尾さとみさん著、「京都のお酢屋のお酢レシピ」に寄せて書いてみたい。
ここで何度も紹介させて頂いている京都・宮津の飯尾醸造さんのお酢を使ったレシピ本である。
飯尾醸造さんについては、ここでも何度か紹介させて頂いている。
京都・丹後の美しい棚田で無農薬米を契約農家と一緒に育て、お酢のもとになる酒造りまで自社で手掛けておられる、稀有な、いや、唯一無二の醸造元である。
今年はコロナ禍で田植えにお伺いすることは叶わなかったが、またあの一本松の美しい風景を観に、丹後を訪れたいと思う。
そんな「京都のお酢屋」の母娘がおすすめする、お酢を使ったレシピが本書には詰まっている。
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飯尾醸造さんのお酢と出会った頃、私はお酢についての知識がまったくなかった。
恥ずかしながら、「身体いいとは聞くが、酸っぱい調味料」としての認識しかなかった。
それが、ご縁があって飯尾醸造さんの存在を知り、蔵元を見学し、田植え体験会に参加し、稲刈りに押しかけ、冬場の酒造りを拝見して、その価値を知るようになった。
ところが、料理にそれほど慣れているわけではない私にとって、飲むだけの果実酢はまだしも、穀物酢を上手く使うというのは、なかなか難しいものだった。
それを、本書は変えてくれた。
なにより、掲載されているレシピが簡単なのだ。
「やわらか鶏のこっくり煮」、「秘策いっぱい棒棒鶏」、「豚と玉子のとろーり角煮」、「お酢屋の麻婆豆腐」などなど、本当に簡単で美味しく、飽きないレシピがたくさん掲載されている。
特に「やわらか鶏のこっくり煮」は、晩御飯のレシピに困ったときのジョーカーだ。
鶏もも肉、長ネギ、しょうが、にんにく、醤油、酒、砂糖、そして富士酢。以上。
もう、何度お世話になったことか。
「煮物にお酢」という発想自体が、本書に出会わなければ、知らなかった。
お酢が与えてくれるのは、旨味であり、コクなのだと知ることができた。
本当に、お肉は柔らかくなるし、魚は臭みがなくなるのだ。
シンプルなレシピで、飽きがこない。
家庭料理にとって、それは何ものにも代えがたい価値だと感じる。
それを実現してくれるのは、やはりあの美しい丹後の風景の中でつくられた富士酢だからなのだろう。
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さて、ここまで紹介した本書は、2007年の出版から13年の長きにわたり版を重ねてきたが、残念ながら今ある在庫で絶版となるとのこと。
(Kindle版は引き続き販売されるとのこと)
「情報を知る」だけならば、Web上で検索すればありとあらゆる情報が得られる昨今において、「本」というものは役割が変わっていくのだろう。
そういった意味では、本書は単にレシピのみならず、生活の中で使えるお酢の知識や、何より丹後・宮津の美しい風景が収録されている。
本書のレシピでクツクツと煮込んでいる時間、本書の美しい写真を眺めていると、こころは丹後の空に飛んで行く。
富士酢のもとになる棚田のお米は、いまは夏の日差しを浴びて、どんどん背を伸ばしていっているのだろうか。
煮込み料理の美味しい香りがキッチンに漂ってくる。
あの富士酢のまろやかな、そして食欲をそそる香り。
至福の時間である。
私にとって本書は、レシピがWeb上で簡単に検索できるようになろうとも、ずっと手元に置いておきたい一冊である。