秋が日に日に深まっていく。
もう朝晩は、半袖では少し寒いくらいだ。
すでに秋分も末候となり、「水始涸、みずはじめてかるる」の時候になった。
田んぼの水を抜いて、頭を垂れる黄金の稲穂を刈り取るころ。
落ち葉も目立ち始め、冬の気配も少しずつ。
だからというわけはないが、秋の空というのは、魅力的だ。
夏の熱気を帯びた空もいいが、日増しに澄んでいくこの季節は、雲の形も特徴的で。
筋雲、うろこ雲、羊雲、鰯雲…
青く高く澄んだ空に描かれたそれらは、日々移り行き、日々変わり行き、目を楽しませてくれる。
一つとして、同じ風景はなく。
それは、毎朝出会う今日も然り、日々すれ違う人たちでもまた、然り。
ぼんやりとただ見上げていても、気づけばぱちりと写真におさめている。
羊の群れのような。
羊雲が出ると、雨が近いとも云われるそうだ。
時に大きな生きもののような雲もあり。
私たちの想像力を試してくれる。
気づけば、同じような場所で撮っているようだ。
私の大好きな映画「SMOKE」を思い出す。
ブルックリンの街角で雑貨店を営むオーギー・レンは、毎朝同じ時間に店の前の街角の風景を撮り続けていた。
あるときオーギーは、常連客のベンジャミンにその撮り続けた秘蔵のアルバムを見せる。
ベンジャミンはある写真を見て、嗚咽を漏らす。
数年前に、不幸な事件で亡くした彼の妻の、在りし日が映っていたからだ。
とても印象的な、あのワンシーン。
大好きな映画だ。
この目に映る、秋の空の雲。
いつか誰かの見上げた雲なのだろうか。
いつかの映画の定点観測のように。
わたしは、ここにいる。
あなたも、そこにいる。
定点観測も、悪くない。