大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

天使のトランペット。

雨が上がり、夜の帳が降りるころ。

私は走り出す。

濡れた路面は、月明りを映して光っていた。
湿った空気が、細かい霧のようになっていた。

陽の光の下とは、また異なる風景。

その一つ一つの色を愛でながら、私は挨拶を返す。

どこか甘い香りがした。

見れば、暗闇の足元を照らすように、下を向いて咲く黄色。

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花は、みな人の顔を向いて咲く。

そんなことを語った人がいた。

されどその黄色は、謙虚に大地に頭を垂れる。

キダチチョウセンアサガオ。

その黄色の、名前。

ブルグマンシアとも呼ばれ、常緑の豊かな葉を茂らせる。

その花は大地に向かって咲き、特に夜に芳香を放つ。

筒に似たその花の形は、時に「天使のトランペット」とも呼ばれるそうだ。

天に向かって咲く花もあれば、地に頭を垂れる花もある。

不思議なことに。

10年近くもこの土地で暮らしてきて、この「天使のトランペット」を認識したのは、初めてだった。

準備ができたときに、世界はその姿を見せる。

「己が足元を、見よ」

そう、そのトランペットたちに言われているような気もした。

花は、いつもいろんなことを教えてくれる。

翌日、またそのトランペットに会いに行った。

けれど、同じ場所にはもう昨日の芳香はなく。

もうすでにしぼんだ花弁が一つだけ残っているだけだった。

しばし呆然として、走りを止める私。

瞬間にこそ、愛は宿る。

そのしぼんだ花弁は、そう語っているような気もした。

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