大嵜直人のブログ

たいせつな何かをなくした心に、ともしびを。

暴君の娘から、淑女へと。 ~2020年エリザベス女王杯 回顧

はたして「行ってしまった」のか、「行かせた」のか、それとも「行かざるを得なかったのか」。

 

ノームコアがハナに立つと、どよめきにも似た空気が阪神競馬場から伝わってきた。

 

鞍上が押していないところを見ると、無理に抑えてかかるくらいなら、気持ちよく行かせようとしたように見えるが、そこは天才肌の横山典弘騎手のことだ。

 

思い描いていたプランの一つかもしれない。

 

明確な逃げ馬のいないメンバー、後続の隊列は早めに落ち着いた。

 

番手に3歳のリアアメリア、その後ろにオークス2着のウインマリリン、そして穴人気になっていたソフトフルートという3歳勢が先行集団を形成。

 

その後ろに、前走でGⅡ・オールカマーを勝っているセンテュリオと戸崎圭太騎手、昨年のオークス以来の復権を狙う2番人気のラヴズオンリーユーとミルコ・デムーロ騎手は中団やや前目。

 

その一段後ろに、昨年に続いて連覇を狙う1番人気・ラッキーライラッククリストフ・ルメール騎手。

 

石橋脩騎手と、阪神ジュヴェナイルフィリーズ

クリストフ・スミヨン騎手と、エリザベス女王杯

ミルコ・デムーロ騎手と、大阪杯

3人の男に導かれてGⅠを3勝した彼女の背で、初めて手綱を引くルメール騎手。

 

18番枠からの発進だったが、うまく前に壁をつくって落ち着いて追走している。

 

それをマークするように、前哨戦のGⅡ・アイルランドトロフィー府中牝馬ステークスを制して本格化の兆しを見せたサラキアと北村友一騎手が追走する。

 

向こう正面に入り、ノームコアが5馬身ほどリードを広げていく。

 

1,000mの通過は59秒台前半と、かなり早いペースに見える。

 

 

 

だがエリザベス女王杯の逃げといえば、あのブエナビスタが届かなかったクイーンスプマンテテイエムプリキュアの「行った行った」で決まった2009年を思い出す。

 

まして今年の舞台は、京都競馬場の改装工事により、逃げ先行が有利な阪神内回りの2,200mである。

 

 

だが3コーナーに差し掛かるあたりで馬群は縮まり、後方にいたウラヌスチャームの斎藤新騎手がマクリ気味に上がっていく。

 

ラッキーライラックは、そのウラヌスチャームを露払いにして仕掛けた。

 

4コーナーを曲がって直線で早くも先頭に並びかける。

 

ノームコアには、もう手ごたえは残っていない。

 

横山騎手の賭けは、裏と出た。

 

こうなると、怖いのは後ろだ。

 

外を回して追うはサラキア、そしてラヴズオンリーユー。

 

抜け出したラッキーライラックに迫る。

 

しかし、ルメール騎手の左鞭に応え、ラッキーライラックは伸びる。

 

サラキアにクビ差まで迫られたが、なんとか凌ぎ切った。

 

ラッキーライラック1着。

 

昨年に続いての連覇を達成し、通算で4つ目のGⅠタイトルを勝ち取った。

 

難しい大外枠のスタートから、道中の位置取り、そして仕掛けと、いずれも当代随一のルメール騎手の技術が光った。

 

2歳GⅠを勝っていながら、この5歳に至るまで常にトップレベルの力を維持する息の長い活躍は、父・オルフェーヴルの血の成長力のなせる業か。

 

先日の秋の天皇賞を勝った同世代のアーモンドアイもそうだったが、5歳の秋にして世代交代を断固として拒むかのような走り。

 

同期のアーモンドアイとあわせて、現時点でGⅠをなんと12勝。

 

比類なき世代の、牝馬たちである。

 

ステイゴールドからオルフェーヴルへと流れる「狂気の血」を継ぎ、折り合いに苦労する面も見せながら、この中距離GⅠを何度も勝つのは、現役時代「牝馬のミキオ」と呼ばれた松永幹夫調教師をはじめとする関係者の尽力の賜物だろう。

 

戦前、松永師は今回がラストランの可能性も示唆していた。

 

次走があるのか分からないが、無事に競争生活を終え、その血を紡ぐことを祈っている。

 

暴君の娘から、淑女へと。

 

ラッキーライラックが、エリザベス女王杯連覇を成し遂げた。

 

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ラッキーライラックには赤がよく似合い。

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