「おとうさんは、なにになりたかったの」
「何に、かぁ。小学生のころは、プロ野球選手かな」
「やきゅうせんしゅ?」
「あぁ。ナゴヤ球場で、バッターから三振を取ってみたかったよ」
「やきゅうせんしゅには、ならなかったの?」
「あぁ、お父さんは、運動神経があまりよくなかったからな。下手っぴだったから、無理だったな」
「ふーん」
「いまの小学生は、みんな何になりたいって言ってる?Youtuberとかか?」
「うーん、いろいろ」
「いろいろって、なんだよ。おとうの頃は、プロ野球選手か、ケーキ屋さんが人気だったかなぁ。なつかしい」
「やきゅうせんしゅの、ほかには?」
「他には、かぁ…何だろう。あぁ、そういえば、おとうが中学生の頃に、『料理の鉄人』ってテレビがやっててね。それで料理人に憧れたなぁ」
「りょうりにん?」
「うん、コックさん」
「ふーん」
「道場六三郎さんっていう、和食のすごい人がいてね。かっこよくて、あこがれたなぁ…やっぱり、かっこいいのにあこがれるのかな」
「コックさんには、ならなかったの?」
「そうだね、ならなかったね」
「ふーん」
=
「おとうさん」
「どうした?寝れないの?」
「ねえ、夢って、かなわないひとのほうがおおい?」
「どうして?」
「うーん…」
「ああ、さっきのプロ野球選手とか、コックさんの話しか」
「…」
「そんなこと、ないよ。夢を叶える人も、いっぱいいる」
「そうなの」
「あぁ、そうだよ」
「ふーん。おとうさんは?」
「あぁ、プロ野球選手とか、コックさんは叶わなかったかもしれないけれど、いまこうして話してることは、夢みたいなものだよ」
「ふーん」
「どうしてもその夢にこだわる人もいれば、気付いたら叶ってる人もいる。人それぞれ、いろんな叶え方があるんだと思うよ」
「そうなの?」
「あぁ、きっと、そうだよ。それに、叶う・叶わないっていうカタチにこだわると、しんどいかもね。幸せは、形じゃないから」
「おとうさん」
「うん?」
「おやすみ」
「あぁ、おやすみ」