野球が好きだった、少年時代。
父にナゴヤ球場に連れて行ってもらうのが、何よりの楽しみだった。
いつもお決まりの、ライトスタンド。
内野のいい席のチケットがあっても、外野席で応援するのが常だった。
せっかくのいい席なのに、と渋る父の袖を引っ張り、応援団の熱気の感じられるライトスタンドが、小さな私のお気に入りだった。
カクテルライトに照らされたグラウンド。
超人のようなプレーを魅せる選手たち。
ビールを飲んで赤ら顔の父。
メガホンを叩き声を枯らして歌う応援歌。
得点が入った時に視界一杯に舞う紙吹雪。
どれもが、小さな私にとって夢の中の出来事のようだった。
あのころから、つながりや一体感が、私にとってのよろこびだったのだろう。
その夢の劇場の中でも、最も好きなシーンの一つが、試合後のヒーローインタビューだった。
「放送席、放送席、今日のヒーローはもちろん、勝ち越しの3ランホームランを放った〇〇選手です!さて、チャンスで回ってきた打席、どんな気持ちでバッターボックスに向かいましたか?」
というように、今日の試合の中で活躍した選手が、お立ち台に立ってインタビューを受ける時間だ。
野球場のメインスタンドである、1塁側の内野席の前で行われるのが常のため、このときばかりは外野席に来たことを後悔するのだった。
いまは、ネットニュースやSNSなどでプロ野球選手に関する情報量は、簡単に得ることができる。
けれど、ネット環境などなかった当時、選手個人の肉声を聞くのは、貴重な機会だった。
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そんなヒーローインタビューだが、なぜか私は、インタビューを受けるヒーローよりも、インタビュアーの方にこころ惹かれるのだった。
プロ野球のスタジアムという一つのエンターテイメントにおいても、こころ惹かれるところは、人それぞれ違うのだろう。
非日常空間の中でのビールとお弁当が最高だという人もいれば、
あんな照明と大歓声の下で野球をしてみたいと憧れる人もいれば、
愛するチームの活躍に心躍る人もいれば、
ヒーローインタビューの時間に強く惹かれる人もいる。
そして、ヒーローインタビューの中でも、インタビューを受ける人に憧れる人もいるし、インタビューをする側に惹かれる人もいるだろう。
私は、ファンの心にグッとくる言葉を引き出すインタビュアーに憧れた。
時に、友達と「ヒーローインタビューごっこ」をして、インタビュアー役をやって満足していたような記憶がある。
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こう書いていて思い出すのは、2014年ソチ・オリンピックの女子スキージャンプ、競技後の高梨沙羅選手にインタビューをしたNHKの工藤三郎アナウンサー(当時)だ。
同シーズンのワールドカップを13戦10勝、すべて表彰台。
自然相手の競技では考えられないくらいの圧倒的な成績を収め、金メダル候補筆頭として期待されていた、高梨選手。
だが、2本とも不利な追い風を受けるなどの不運もあり、結果は4位とメダルを獲得することはできなかった。
競技直後のインタビュー、工藤アナはこう切り出す。
「どうですか、初めてのオリンピック終わって」
弱冠17歳の両肩に、想像を絶するほどの期待と、プレッシャーを背負って競技したであろう高梨選手への、やわらかな声がけ。
それに応じて、応援してくださった周囲への感謝を述べ、そして不運を言い訳せず、自らの技術不足だったと気丈に話す高梨選手。
「これからも、みんなが沙羅さんのことを応援すると思います」
まなざしを未来へと向ける、どこまでも優しい言葉。
「よく、頑張りました」
そう言って、工藤アナはインタビューを締めた。
無言で、頷いて立ち去る高梨選手。
観ていた人のこころを打つ、インタビューだった。
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子どものころ憧れた、ヒーローインタビュー。
とりとめもなく、そんなことを思い出す。
そんなインタビューを、してみたい。
英雄質問之図。