大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

馬上の風に吹かれて。

某サイトへの寄稿記事の取材を兼ねて、県内の乗馬クラブを訪れた。
せっかくなので体験乗馬を申し込み、人生初(?)の乗馬体験をさせて頂いた。

もしかしたら小さい頃に乗ったことがあったのかもしれないが、記憶にないので人生初と言うことにしておこう。  

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私の故郷にほど近い、河口のほどちかく。
気持ちよく、晴れてくれた。

少し早めに着いて、着替えを済ませてクラブハウスで待っていると、会員の女性の方が声をかけてくださった。
乗馬は初めてですか、と。

少しの会話の中に、馬に、乗馬に対する愛情があふれてくるようだった。
乗馬は何ものにも替え難い魅力があって、いわゆる「沼」なのだそうだ。

もう、馬にぜーんぶお金を使っちゃって。
そう言って笑う、その女性は、幸せそうな顔をされていた。

やさしい、眼をされていた。
乗馬を、馬を愛することが、ライフワークにされているのだろう。
その表情は、とてもうらやましくもあった。

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その方が出て行ったあと、私はぼんやりと考える。
なぜ私は、競馬のことは好きなのに、乗馬をしたことがなかったのだろう。

不思議と、いままで乗馬をしたことがない。

機会がなかったといえばそれまでだが、やはり好きなことをするのには抵抗があるのだろうか。

それは、よくわからない。
それでも、今日こうして、ここに来ることができた。

世界が、またひとつ広がった。

新しい場所、新しい経験、新しい出会い。
それらは、世界について私がまだ何も知らないことを、教えてくれる。

思い通りにいかなくて、うまくいかなくて、初心者で、未熟者。
いつもの世界を飛び出して、そんなアウェーな世界を体験してみることは、もとの世界をまた豊かにしてくれる。

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時間になり、ヘルメットをかぶり準備する。
今日お世話になるサラブレッドが、厩舎から引かれてきた。 

芦毛のサラブレッド。
18歳のベテランさんだそうだ。

父はサクラチトセオー、母の父はサクラユタカオー。
オールドファンからすると、たまらない血統だ。
ちょうど、お父さんが天皇賞・秋を勝ったころ、競馬を見始めたんだ。

踏み台が用意され、乗り方を教えてもらう。
鐙に左足をかけ、右足をぐいっと鞍の上を回す。

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何とか、またがることができた。
けれど、想像していたよりも、はるかに高くて怖い。
手綱と鞍を、ぎゅっと握りしめていた。

指導員の方が、リードロープを持ったまま、少し馬を促す。
ゆっくりと、芦毛の身体が動き始めた。

乗馬には、3種類の歩き方があると教えてくださった。

ゆっくりと歩く、常足(なみあし)。
少し早めの、速歩(はやあし、ダグ、トロット)。
そして最も早い、駈足(かけあし、キャンター)。

ちなみに競馬場で全力疾走するのは、襲歩(しゅうほ、ギャロップ)と呼ぶ。

その最もゆっくりの常足で、芦毛の馬体が歩く。
それでも、手綱を握る手や、身体のいろんなところが強張る。

ゆっくりと深呼吸をして、落ち着かせる。

首を撫でると、温かな馬の体温が伝わってきた。
少し吹く風が、心地よかった。

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しばらく常足のまま歩いていたが、「少しだけ速歩もやってみましょうか」と指導員の方が言い、口笛で合図をする。

急に、身体が上下に揺れた。
これで、少し早めなのか。

背中が上下するタイミングにあわせて、鐙の上で立つ、座る、を繰り返してみましょう。乗馬の基本です。
そう、指導員の方が言う。

馬の動きにあわせて、騎手が身体を上下させている姿が思い浮かぶ。
思い浮かぶのだが…実際にやるのは、難しい。

まず、鐙の上に立つことが難しいし、馬のリズムと合わない。
それでも続けていると、「ぴたっ」と動きが合う瞬間があった。

そんな20分ほどの体験乗馬を終えて、お世話になった芦毛にお礼を言いながら鼻面を撫でる。

大きな瞳が、こちらを見ていた。
なぜ、サラブレッドの瞳は、こんなにも澄んでいるのだろう。

引き込まれそうなその球体を、しばらく見つめていた。

すべてが、そこにあるような気がした。