大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

その末脚は、ドイツの風とともに。 ~2021年 NHKマイルカップ 回顧

何度目かの感染症拡大による緊急事態宣言、無観客開催での2021年NHKマイルカップ。

NHK交響楽団のファンファーレが、無人の東京競馬場に鳴り響く。
このため息が出そうなくらい美しい響きを、現地で聴ける観客がいないのは寂しい限りだが、競馬開催が止まらず続いている奇跡を味わうべきだろうか。

内枠に先行馬が揃ったこともあり、ハイペースが予想された中での、注目のスタート。
最内1番枠のレイモンドバローズが若干出遅れたと思った刹那、その奥の4番バスラットレオンがスタート直後に落馬。
前走同様に逃げると思われていた同馬の、痛恨の落馬。

各騎手の探り合いのような序盤を経て、大外18番枠から福永祐一騎手のピクシーナイトがハナを奪い、番手からホウオウアマゾンと武豊騎手が追走。
1番人気のグレナディアガーズと川田将雅騎手も3,4番手あたりの前目から。
前年のGⅠ朝日杯フューチュリティステークスを勝った後は、マイル・短距離路線を歩むことを決め、前走はGⅢファルコンステークス2着からの参戦。
2番人気のシュネルマイスターとクリストフ・ルメール騎手は、中団やや後方からの競馬。

前半の800mが45秒3と、バスラットレオンが不在ながら、GⅠらしい引き締まった流れでレースは進んでいく。

4コーナーを回り、抑えきれない手応えで抜け出しにかかったのは、グレナディアガーズ。
朝日杯フューチュリティステークスの再現を狙い、馬場の真ん中を伸びる。
坂を駆け上がり、先頭に立つ。

しかし、その外から黄色帽、同じ勝負服のソングラインと池添謙一騎手が馬体を併せにかかる。
外の伸び脚がいい。
1馬身差が開いたと思った瞬間、さらに外からまた同じ勝負服のシュネルマイスターが差してくる。

粘るソングライン、押す池添騎手。
伸びるシュネルマイスター、ルメール騎手の左鞭。

内外並んで同時にゴール板を駆け抜けた結末は、写真判定へ。
長い判定のあと、1着に「15」のランプが灯る。

差し切っていた。
シュネルマイスター1着。

勝ちタイム1分31秒6は、11年前にダノンシャンティが叩き出したレコードに0秒2差に迫る、破格の時計だった。

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1着、シュネルマイスター。

前走GⅡ弥生賞ディープインパクト記念2着から、しっかりと仕上げきっていた。
2000mからの距離短縮も、好影響を与えたのだろう。

今後もマイル路線を歩むのだろうか。
古馬との勝負付けも含めて、秋を楽しみにしたい。

それに加えて、ルメール騎手の大舞台での上手さ、勝負強さが際立つ。
ハイペースを見越してか、中団後方で待機して、グレナディアガーズ、ソングラインと有力馬が仕掛けたのを見届けてから、満を持して追い出す職人芸。
最小着差で勝ち切るところに、凄みを感じる。

ドイツ生まれの同馬の血統。
母系は、Schwarzgoldを祖とする、いわゆる「ドイツのSライン」と呼ばれる名牝系から連なるもの。
そのSラインからは、日本でもビワハイジ、マンハッタンカフェ、ソウルスターリングなどの名馬が出ている。
重厚なそのドイツ牝系に、父・Kingmanのマイルの切れ味が配された、美しい血統表。

外国産馬の勝利は、2001年のクロフネ以来、実に20年ぶりとなる。
このNHKマイルカップの創設期は、ダービーに出走できない外国産馬が多く集まっていたが、その後は内国産種牡馬の台頭により、勢力図は大きく変わっていった。
サンデーサイレンス、ディープインパクトと、同じような血を持つ馬が増えすぎる「血の飽和」を打開するのは、新しい血の流入であることは、歴史が証明している。

このシュネルマイスターの勝利から、また新たな風が吹くのだろうか。

それにしても、飽くことなく世界中から良血を求める、社台グループの努力には畏敬の念を感じずにはいられない。

 

2着、ソングライン。

前走のGⅠ桜花賞では、向こう正面でメイケイエールにぶつけられる致命的な不利を受け、大敗していた。
そこから厳しい中3週で、よく巻き返してきたものだと思う。
7番人気と人気を落としていたが、前々走の紅梅ステークスの勝ち方が出色だったように、やはり世代屈指の能力は持っているのだろう。

大舞台に強い池添騎手の手綱もまた、見事だった。
枠順のアヤもあるが、好スタートを決めて、内に目標とするグレナディアガーズを置ける形。
直線、外に持ち出して進路を確保し仕掛ける、見事な騎乗。
目標のグレナディアガーズは交わしたが、勝ち馬に後ろから差されてしまった。
100点満点の騎乗をしながら、勝ち馬に120点の騎乗をされてしまったという感じがする。

直線、最後の最後にヨレたのが残念だったが、やはり3歳の春にGⅠを連戦するのは相当に負担がかかるのだろう。
まずはその疲れをリカバリーして、またその走りで魅せていただきたい。

 

3着、グレナディアガーズ。

これまで同様、積極的に前目につける正攻法の競馬での3着。
本馬場入りしてから、腹帯あたりに発汗が目立ち、道中は少しかかり気味のようにも見えたが、前進気勢が旺盛なこの馬の長所と見るべきだろう。
朝日杯では、同じような形で押し切ることができたが、今回は先着した2頭の目標にされてしまった形になった。
とはいえ、自分の形で力は出し切ったように思う。

目標にされる厳しい展開でも崩れなかったのは、高い能力の証でもある。
朝日杯フューチュリティステークスを勝ってから、次走を距離短縮した1400mのGⅢファルコンステークスを選択したように、短距離への適性の高さがうかがえる。
今後の短距離路線を賑わしてくれることを期待したい。

4番人気のバステッドレオンは、前述の通りスタート直後に落馬で競争中止。
幸いにも、藤岡佑介騎手に大きな怪我はなかったようで、次の12レースにも騎乗していたが、関係者の方々を想うと、やりきれなさは募る。
前2走、強い競馬を見せて、本番のここでも絶好の4番枠を引き当てていただけに、無念さは察するべくもない。
この先、またGⅡニュージーランドトロフィーで見せてくれたような逃げ脚で、その無念さを晴らすことを期待したい。

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GⅠらしい厳しい流れのレースに、名手の競演、手に汗握る直線の攻防。
無観客開催が惜しまれる熱戦だった、2021年のNHKマイルカップ。
何かと騒がしい世情の中、いまここにしかない1分31秒6だった。

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