時に出会い、また時に別れ。
どこかで話し、またどこかで歩き。
昨日、今日、明日。
時に忘れ、また時に思い出す。
どこかで愛し、またどこかで離れ。
昨日、今日、明日。
あの色の空は、いつ見た空だったか。
遠く離れた地なのか、もう戻らない過去なのか、それとも。
空を覆う雲でさえ、愛おしく思えるときもあり。
戻らない季節に、胸が締め付けられたり。
かつて見ていた色は、微かな痛みをともなったりもする。
いまこの眼前の色は、いつ見た色だったか。
もう戻らない時間は、生まれる前の季節だったか、それとも。
昨日、今日、明日。
昨日、今日、明日。
あの日誰かに会った記憶を、私が覚えているように。
あの日私が訪れたことを、誰かが覚えているのだろうか。
たとえば、そこにそびえる杉の木であるとか。
たとえば、そこに咲く桃色の花であるとか。
たとえば、等しく降り注ぐ雨であるとか。
そんなものが、記憶を持っていたとしたら、どうだろう。
そうだとしたら。
杉や、桃色や、靴に染みた雨が。
時に、それを思い出す時があるのだろう。
それは、どんな色をした思い出なのだろうか。
いつか、道を歩いていた。
傘をさしていたのか、それとも被っていたのか。
抜けるような青空に、ヒヨドリが鳴いていたような気がする。
着ていた蓑を濡らす、冷たい雨が降っていたような気もする。
見果てぬ真っ直ぐな道、その先の地平線で蜃気楼が躍ったような気がする。
半里の先をも見通せぬ、森の中で木々の呼吸を聴いたような気もする。
たいせつなものを、乗せた馬を引いていたような気がする。
その身ひとつ以外、何もなかったような気もする。
どうしても着きたい、目的地があったような気がする。
その道の行く末には、何もなかったような気もする。
その手をはじめに引いたのは、母だったのだろうか。
ただ、歩みだけがあった。
振り返りもせず、やめることもせず。
ただ、歩みだけがあった。
昨日、今日、明日。
それは、続いていく。
木々のざわめき、傘を叩く雨粒の音、その中の無音。
蝶の羽ばたき、遠く海鳴り、その中の心音。
立ち枯れた木が、寄せては返す波にさらわれ、流されゆくように。
それもいつか、忘れるのだろうか。
それもまた、かなしい、さびしい。
そのかなしさとさびしさを、あの桃色は覚えていてくれるような気もする。
いつか、思い出すため。
いつか、忘れるために。
昨日、今日、明日。
今日もまた今日とて、今日が続いていく。