大嵜直人のブログ

たいせつな何かをなくした心に、ともしびを。

寺山先生、メジロボサツの血が、また爆ぜましたよ。 ~2021年スプリンターズステークス 回顧

秋のGⅠシーズンの訪れを告げるスプリント王決定戦、GⅠスプリンターズステークス。

 

今年は2年ぶりに有観客での開催となった。

感染症禍による無観客開催だった昨年は、春の安田記念を制していた4歳牝馬のグランアレグリアが、最後方から強烈な末脚で差し切った。スプリント女王を戴冠した同馬は、返す刀でGⅠマイルチャンピオンシップをも制し、2020年の最優秀短距離馬の栄誉に浴したのは、記憶に新しい。

 

少しずつ熱気が戻りつつある中山のスタンドに、GⅠのファンファーレが鳴り響く。

 

3年連続で先手を取ったのが、モズスーパーフレアと松若風馬騎手。大外16番枠ながら、最後に枠入りの利も活かしてハナを奪う。昨年もハナを争った同型のビアンフェは、今年は争わず、引いて番手に収まる。

 

注目された2番人気のレシステンシアとクリストフ・ルメール騎手は、外目の12番枠からしっかりと出して、前目のポジションを取る。その内から、絶好の4番枠を活かして同じ前目の位置を取ったのが、前走レシステンシアにわずかに届かなかったピクシーナイトと福永祐一騎手。

最内の1番枠から出たシヴァ―ジと吉田隼人騎手は、自然な形でピクシーナイトの後ろに収まる。一方、1番人気を背負ったダノンスマッシュと川田将雅騎手は、外の14番枠から出た成りで中団の位置取り。

 

大外からハナを奪ったモズスーパーフレアが刻んだ前半3ハロンのラップは33秒3。

ビアンフェと争った昨年に比べても遅く、スプリントのGⅠ戦としては緩いペースだったのだろう。

 

直線に入ると、好位につけていたピクシーナイトがあっさりと抜け出す。

レシステンシアもそれを追うが、ピクシーナイトの脚色は衰えず、2馬身差をつけてゴール板を通過した。最内からするするとシヴァージが抜け出しにかかったが、何とかレシステンシアはこれを抑えて2着を確保。シヴァージは大健闘の3着に入った。

 

勝ちタイム、1分7秒1。

前半3ハロンを33秒3で入って、後半は33秒8のラップでは、さすがに後方待機組と外を回らされた組には、厳しかったか。

 

ピクシーナイトが、3歳にしてスプリント戦線を統一した。

 

 

それにしても、ピクシーナイトの充実ぶりには目を見張るばかりだった。枠の有利はあったにせよ、現役スプリンターの中でも屈指の実力を持つレシステンシアに、2馬身の差をつけるのは尋常ではない。レシステンシア自体も、やりたい競馬はできていたと思われるだけに、なおさらにその強さが際立つ。

 

3歳馬のスプリンターズステークス制覇は、2007年の牝馬・アストンマーチャン以来となるが、牡馬となると1998年のマイネルラブ以来となる。マイネルラブが制した当時は12月3週目の開催であり、9月末~10月頭の施行となってからは史上初の快挙となる。

 

3歳でスプリンターズステークスを制したのは、ニシノフラワー、ヒシアケボノ、タイキシャトル、そしてマイネルラブとアストンマーチャンと連なる。その名スプリンターの系譜に、このピクシーナイトも連なるのだろうか。

 

まだ3歳、これから先の飛躍が楽しみでしかないが、スプリント戦線を引っ張っていくであろう、超新星の誕生であることは間違いないだろう。

 

好枠の利をそのまま活かした、福永祐一騎手の手綱さばきも見事。

前哨戦のGⅡセントウルステークスで中団から進めて差し切れなかったが、本番では好枠を活かしてきっちりとポジションを取り、勝利を手繰り寄せた。

 

内でも揉まれずにスペースと進路を確保するあたり、今年の天皇賞・春でのワールドプレミアの騎乗を想起させた。

ダービー3勝、その手綱はますます円熟を極めていくようだ。

 

そして何より。

ピクシーナイトの母の父は、キングヘイローである。

福永騎手自身に縁の深い、キングヘイローの血を受け継ぐ同馬でのGⅠ勝利は、喜びも格別だろう。

そして母の母の父は、このスプリンターズステークスで連覇を成し遂げた、サクラバクシンオー。見ていて惚れ惚れする血統だ。

 

血統といえば、ピクシーナイトはモーリス産駒として初めてのGⅠ勝利となった。

曾祖父・グラスワンダー、祖父・スクリーンヒーロー、父・モーリスと、父仔四代にわたってのGⅠ勝利という、まさに空前絶後の記録。

 

ピクシーナイトの血統表の5代祖先に刻まれた、メジロボサツの名。

1963年にメジロボサツを産んだメジロクインは、大変な難産であったため、そのボサツを産んで力尽き、命を落とした。

 

昭和に生きた詩人・作家の寺山修司さんは、そのメジロボサツについてエッセイの中で語っている。

 

嵐にびしょぬれになりながら、厩舎の関係者たちは、メジロクインの死を惜しんだ初仔は、いわば祝福されずにこの世にあらわれたのである。

 

祝福されず、この世に生を受けたメジロボサツ。

彼女が祝福されるためには、勝ち続けるしかなかったのだ、と。

 

メジロボサツはよく走り、繁殖に上がっても多くのすぐれた仔を残した。

ボサツの仔・メジロクインシーからメジロモントレーとつながり、モントレーの仔であるメジロフランシスとスクリーンヒーローの間に産まれたのが、モーリスだ。

 

寺山修司さんが愛した、メジロボサツのものがたり。

そのものがたりは、半世紀の刻を超えてなお、今日のGⅠスプリンターズステークスで燃え上がる。

 

競馬の血統とは、何と奥深いものか。

人と馬の織り成す、歴史そのものだから、当たり前なのだが。

 

それでも、そのものがたりを紡いで来られた、寺山先生のような先人たちにあたらめて感謝したい。

 

そんな畏敬の念を頂く、2021年のスプリンターズステークスだった。

 

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