2021年、100回記念を迎えた凱旋門賞。
レースの前には晴れ間も見えていたが、前日から降り続いた雨に悪化した馬場は、現地発表で悪い方から2番目となっていた。
横一線のスタートから、日本の武豊騎手騎乗のブルームが押して先手を奪う。
各馬の馬体がぶつかりそうなほど密集した馬群のまま、長い向こう正面を進んでいく。
その馬群から大きく離れて、日本の期待を背負うクロノジェネシスとオイシン・マーフィー騎手は外目を追走する。外の14番枠からの発走、できるだけ良い馬場を選びながら道中を進めているようにも見えた。
前哨戦、逃げたディープボンドは行き脚がつかず、後方集団からの追走となっている。
じわりじわりと馬群に近寄っていき、そっと外目にかぶせて追走するクロノジェネシス。
番手にいたアダイヤーが、焦れたようにブルームをかわして先頭に立ち、代わりに馬群を引っ張る体勢。徐々にクロノジェネシスは押し上げていき、フォルスストレートに入っていく。
最後の直線に向かうところで、ディープボンドも後方から押し上げていく姿が見えた。
絶好の2番手で直線を向くクロノジェネシス。
内からタルナワとハリケーンレーンが抜け出しにかかる。
必死に食い下がるクロノジェネシスだが、徐々に脚を失くしていく。
タルナワ、ハリケーンレーン、人気の2頭の追い比べ。
ぬかるんだ馬場をものともせず、伸びるその姿には欧州馬の底力を見るようだった。
しかし、外から一頭、黄色の勝負服、トルカータータッソが襲いかかる。
内の2頭を、豪快に差し切ったところが、栄光のロンシャンのゴールだった。
勝ち時計は2分37秒62。
やはり緩んだ馬場により、極限のスタミナとパワーを求められる、タフな消耗戦。
ファウンドが制した2016年に記録されたレコードは2分23秒61(良馬場)と、まったく予想のつかない振れ幅が、このロンシャンの恐ろしさなのだろう。
伏兵ともいえる、13番人気のドイツ馬・トルカータータッソの強烈な末脚。
ドイツ場の勝利は、のちにジャパンカップにも出走した2011年のデインドリーム以来となる、3頭目。GⅠバーデン大賞からの連勝で、見事に戴冠となった。
レネ・ピエチュレク騎手、マルセル・ヴァイス調教師ともに、初の凱旋門賞制覇の偉業。
ヴァイス師は2019年に開業したばかりという、稀に見るサクセスストーリーをこの大舞台で成就させた。
この後は、ジャパンカップに参戦するプランもあるという。
ドイツから現れたニューヒーローの、今後の活躍を楽しみに待ちたい。
クロノジェネシスは7着に入線。
一頭だけ外を走らせる果敢なレースぶり、絶好の2番手で直線を向いたときは、大きく胸が躍ったが、最後は伸びきれなかった。
重い馬場だった昨年の宝塚記念を制したように、緩い馬場への高い適性を期待されたが、やはりこの極悪馬場はまた別物だったか。
それでも、宝塚記念から直行・直前輸送などの新しいチャレンジは、いつか日本調教馬があの頂に立つときの糧になるのだろう。
武豊騎手のブルームは11着での入線。
道中、ハナを切る果敢な騎乗でレースを引っ張り、アダイヤーがかかり気味に先頭を奪ってからも、落ち着いてやわらかな騎乗は変わらなかった。
この華やかな舞台には、日本のレジェンドがよく似合う。
帰国後には隔離期間もあるなかで、遠くフランスの地で飽くなき挑戦を続ける姿には、胸が熱くなる。
ディープボンドは捲り気味に仕掛けたが、直線失速して14着と最下位での入線となった。
前哨戦のGⅡフォワ賞では素晴らしい伸び脚を見せていたが、ここまで悪化した馬場に苦しんだのかもしれない。
今回は結果がともなわなかったが、その豊かなスタミナが活きる舞台で輝くことを、楽しみにしたい。きっと、この挑戦は後に続く者たちを照らす光になる。
残念ながら、栄光のゴール板を日本調教馬が駆け抜ける姿を観るのは、来年以降に持ち越しとなった。
しかし、挑戦をやめない限り、失敗は存在しない。
あの敗戦が、あったからこそ。
いつの日か、その挑戦が実を結び、そう語る日がやってくることを信じて。
今年も、高くそびえるロンシャンの頂に挑戦した陣営と関係者の方々には、最大限の賛辞と感謝を送りたい。
ありがとうございました。
いつか花咲く、その日まで。