大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。それでも、愛することを諦めきれないあなたへ。

ラスト・フライト、希望をたなびかせ。 ~2021年 ジャパンカップ 回顧

馬場の真ん中を伸びる、黒鹿毛の美しいフォーム。
コントレイルだ。

白い帽子、赤い手綱、白い手袋。
福永祐一騎手が追う。

好枠を活かして中団の絶好のポジションをキープ、道中キセキの大捲りにも動じず、完璧なエスコートで直線を迎え、伸びる。

ゴール板の手前、勝利を確信して腰を上げた。
引退レースを無事に走り切ること、そして失いかけた三冠馬の威信を取り戻すという、困難な二つのミッションを成し遂げた瞬間だった。

天を見上げ、ゴーグルからあふれる涙をぬぐう仕草が見えた。

偉大なる父・ティープインパクトと同じ無敗三冠を達成した喜びと、それと同じだけの重圧。
古馬となった今年は、大阪杯、天皇賞・秋と2度の惜敗。求められた「勝利」の二文字を、どれほど渇望した1年間だっただろう。

ダービー3勝の名手をして、あふれる感情を抑えきれずに、勝利ジョッキーインタビューでは落涙していた。

「立派でした」
絞りだすように吐露した、その一言に、すべてが詰まっているような気がした。

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2020年、世界を襲った未曽有の感染症禍。
気付いたときには、暗闇があっという間に世界を覆っていた。

狭く小さくなっていた世界は閉じ、つながることを禁じられたディストピアが、重くぺったりと横たわっていた。
経済は止まり、人は移動を制限され、仲間と飲み、笑い、語らうことも簡単なことではなくなった。

感染症禍が奪っていったのは、人の健康だけではなかった。

人の世の、希望。
それを、奪っていった。

希望があればこそ、人はどんな今日にも耐えられる。
しかし、明日なき今日を生きなければならないとき、人は折れる。

そんな2020年に、コントレイルは走った。

後方のインに閉じ込められる窮地から、外を豪快に伸びた皐月賞。
圧巻の3馬身での戴冠、日本ダービー。
死力を尽くしたアリストテレスとの追い比べを制した、菊花賞。

そして。
アーモンドアイとデアリングタクトとの最初で最後の対決となった、ジャパンカップ。
菊花賞の激走の疲れも残る中、出走してくれたことには、感謝しかない。

世界が闇に覆われた2020年。
その年、コントレイルの走りは、どれだけの希望の灯りをともしたことだろう。

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名手が「ジョッキー人生のすべてを注ぎ込んだ」と語った三冠馬・コントレイルは、完全なるラスト・フライトを終え、これから父としての新しい道を歩む。

いつの日か。
そう遠くない、その日。
その走りを受け継ぐ仔が、ターフで躍動するのを心待ちにしたい。

そのときコントレイルは、北の大地で、飛行機雲のたなびく空を見上げているのだろうか。

ありがとう、コントレイル。
ありがとう、福永祐一騎手。

2021年ジャパンカップ、コントレイル。
そのラスト・フライトは、希望をたなびかせながら。

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