大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

書評:根本裕幸さん著「今日こそ自分を甘やかす」に寄せて。

私がカウンセラーとして師事しております、根本裕幸師匠の新著「今日こそ自分を甘やかす」(大和書房、以下「本書」と記す)の書評を。

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1.自分に対して、厳しい方?それとも甘い方?

あなたは自分に厳しすぎると思いますか?
それとも甘いほうだと思いますか?

本書 p.18

本書は、こんな素朴な問いかけから始まります。

この記事をお読みの皆さまなら、何と答えますでしょうか。

こう書くと結論が読めてしまうのですが、多くの人は自分に対して厳しすぎるので、少し甘やかすことをしませんか?というのが、本書の主旨になります。

「甘やかす」という表現に、違和感というか、引っかかりを覚える方も、もしかしたらいるかもしれません。

「甘やかす」という言葉そのものの意味を引いてみると、

甘えるようにさせる。特に、子供をかわいがるあまりにきびしくしつけない。相手が勝手気ままな行動をするのを許す。

甘やかすとは - コトバンク

という意味が出てきました。

「あまりきびしくしつけない」「勝手気ままな行動をするのを許す」とありますが、それ自体には何の意味付けもありません。ただ、そうすることを許す、といった程度の意味です。

ところが、その「甘やかす」という表現に対して、どこかネガティブな意味づけを感じてしまう人が、多いようです。

もちろん、厳しくすることが必要な場面も、生きていく中では多々あります。けれども、「甘えてはいけない」、「厳しくしないといけない」といった観念を、無意識のうちに自分自身にも、そして他人にも押し付けてしまっていませんか?というのが、本書の出発点になります。

実際、私もカウンセリングをしていると、自分自身をすごく厳しい目で見ておられる方に、お会いすることがありますし、私自身も無意識のうちに自分自身に厳しくしてしまいます。

本書の中には、たくさんの方の「自分に厳しくしてしまう実例」が出てきます。

  • 人のミスには寛容なのに、自分がミスをするととても落ち込んでしまう
  • 高齢のご両親には冷房を使うように口酸っぱく言うのに、自分一人だと我慢してしまう
  • 他人の成長は褒められるのに、自分のことになると「まだまだ…」と考えてしまう

はい、思い当たる節がありすぎる方も多いのではないでしょうか。

こういう実例を聞くと、「あるある!」と我が身を振り返ることができるのですが、なかなか自分だけでは気づかないものです。

私たちは、自分で考えている以上に、自分に対して厳しくしてしまっているのかもしれません。

本書では、それこそが本当の問題だと述べられています。

自分に厳しすぎる人たちは様々な点で「厳しい基準」を自分に設けています。また、社会的な"暗黙のルールやマナー"に支配されてしまうことも多いと思います。

しかし、本当の問題は「厳しすぎる基準を持っていることに、自分が気づいていない」ということです。

本書 p.22

2.自分に厳しいことに気づかないことで起こる問題

本書では、そうした「自分に厳しいことで無自覚でいること」で引き起こされる数々の問題についても、詳しく述べられています。

自分の言動を自分で厳しく監視し、果てはその目を他人に向けてしまったり。あるいは、チャレンジする自分を応援できなくなり、チャレンジしている人に嫉妬を抱いてしまったり、自分の気持ちを一番あとまわしにしてしまったり…
私にとっても、あまりにも身に覚えがありすぎる例ばかりです。

こうした「自分に対して厳しすぎることに無自覚でいること」が引き起こす問題を、端的に「いま、幸せを感じることができなくなってしまう」と本書では表現しています。

いま、この瞬間に幸せを感じることができない。それは、真綿で首を絞めるように辛いことです。そして、そこから抜け出そうとして、さらに自分に厳しくしてしまって、蟻地獄のような状態になってしまいかねません。

自分に厳しくすること自体は、悪いことでも何でもないと思います。ただ、それに対して無自覚でいることは、かくも大きな問題を引き起こすようです。

3.なぜ、そんなにも厳しくしてしまうの?

本書では、なぜ「自分に対して無自覚に厳しくしてしまうこと」をしてしまうのかについても、詳しく書かれています。

多くの場合、自分に対して厳しくするのは「厳しくしないといけない」という、強い思い込み(=自分ルール、観念)からきています。

その思い込みが、なぜつくられたのか。それについても、本書では述べられています。

観念はその多くが「心の傷」から生まれます。痛い思いをした分だけ、もう二度と傷つかないように「観念」という名の鎧(よろい)をまとうわけです。

本書 p.35

優等生タイプというのはいわば、先生や周りの人たちの言うことをよく聞いて、その期待に応える生き方をしている人たちです。

(中略)

「どうすれば大人を困らせないか? 怒られないか?」を考えて行動しているので、いつの間にか「自分」を見失うのです。

だからこそ、余計に「優等生」の役割にハマり、ますます周りの期待に応え続けようと頑張るのです。

本書 p.39

本人は「自分はまだまだ甘い」と思っていて、成果だけでなく、自分の頑張りも、価値も能力も全く認めようとしません。

「隣の芝生は青い」とはよく言いますが、理想主義者は常に「青い芝生の家の隣に住む」ことを繰り返しているのです。

本書 p.45

・・・なんだか、書いているうちに私自身の自己紹介をしているような気分になってきたので、このあたりで引用は止めにします笑

しかし、自分に厳しくしてしまう要因を知ることだけでも、少し自分に置き換えて考えることができるように思います。

誰しも、喜んで自分にビシバシ厳しくしたり、鬼軍曹にムチ打ったりさせているわけではなくて、「そうせざるを得なかった」という状況なり、過去なり、心の傷なりがあると本書では述べられています。

そうせざるを得なかったようなぁ、と自分に対して思えただけで、もう「自分を甘やかす」ための第一歩はスタートしているのでしょう。

それを、本書は意図しているように思います。

4.一度だけではもったいない、QuestionとWork

さて、こう書いていくと、すごく読むのが大変なように感じるかもしれませんが、本書は短いチャプターで区切られていて、するすると読み進めることができます。

そして、各チャプターの最後には、読む人の心に問いかける「Question」と、少し想像してみたり、紙に書いてみたりする「Work」が付けられています。

一つ一つの質問は簡素で、短いものです。しかし、その質問を順番に考えていくと、自分の心の内面に深く潜っていくことができるようです。

いくつか引用させていただきます。

Question

「いま自分がいちばんしたいこと」を、すぐに答えられますか?(本書p.34)

Work

「〇〇があったら幸せになれるのに」の、「〇〇」に当てはまる言葉、何が思いつきますか?(本書p.64)

Work

つい張り合ってしまう相手を思い浮かべて「私の負けです」と声に出して宣言してみてください。

心の中にずっとあった感情を感じることができ、肩の力が抜けてとても楽な気分になれると思います。そんな気分になるまで何度でも負けを認めてみましょう。(本書p.104)

Work

「人の迷惑顧みず」を声に出して10回言ってみてください。もし、心の中で抵抗が出てきたり、罪悪感が湧いてきたりするなら、この言葉があなたにすごく必要な証です。(本書p.183)

こうした金言のような質問やワークは、「一回読み終えたから/一回やったから、終わり」というものではないのでしょう。

折に触れて、本をぱっと開いてみて、そのページに記されている質問やワークをしていくと、ついつい自分に厳しくしていたことに、気づくことができるように思います。

そういった意味では、本書は実用書でありながら、ずっと自分に寄り添ってくれて、必要なときに必要な言葉を与えてくれる、やさしい相棒のような本でもあるようです。

一回読み終えただけではもったいない、何度も何度も自分と向き合うときに使える本だと思います。

そういった意味では本書は、私が以前に写経して心の世界を学ばせていただいた、「傷つくならば、それは愛ではない」(チャック・スペザーノ著)のような本なのだと感じます。

5.込められた願い

本書を通じて感じるのは、自分に対して厳しくしていることに自覚的になり、少しリラックスして自由に生きる人が増えてほしい、という願いです。

それは、言葉を換えれば「そんなに頑張らなくても、いま、幸せになれるよ」というメッセージなのかもしれません。

まえがきに述べられていますが、著者自身も「自分にすごく厳しい人」だったそうです。そんな著者が、本書を通じて自信を持って述べられているのですから、きっと私たちももっと自分にやさしくできるのでしょう。

それは、「もっと、幸せになれるよ」という、人の生への希望のようにも感じるのです。

最後に個人的な話ですが、私は書店で「表紙買い」、「装丁買い」とでも呼べるような買い方とたまにしますが、この本の装丁はシンプルな中にも品があって美しいです。

この色合いのように、自分にやさしく、甘やかすことについて述べられた本書を、書店でぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。

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