私はもの覚えが悪い方で、小さいころの記憶というのがあまりはっきりと覚えていないのです。
幼いころのことを、事細かに覚えている人もいるのですが、どうも私はそうではないんですよね。
そんなこともあったかな、というくらいの記憶が多いんです。
ただ、誰が何を言ったとか、その日に何があったか、ということはあやふやなんですが、風景のことは割と覚えているのです。
小学校の帰り道、刈り取られた稲の株が並ぶ田んぼの風景とか、
雪を触って濡らした手袋の冷たさとか、
運動場の土埃が目に入った痛みとか、
祖母の家の匂いとか、
そういったこと、というか感覚は、人並みには覚えているのかもしれません。
そんな私の記憶のことですから、あやふやではあるのですが。
小学校の国語の授業だったでしょうか。
「はながさく とりがうたう」
という言葉を、声に出して学んでいたことを思いだします。
はながさく、とりがうたう。
花が咲く、鳥が歌う。
なんでもない、日本語の一節なんですが、どこか私の心に残ったようでした。
子どもたちの教科書を見るにつけ、ずいぶんと学んだことは忘れてしまっているのを実感するばかりですが笑、その一節は、小さな私の心に残っているようです。
はながさく。
とりがうたう。
なんでもない一節ですが、しみじみと美しい言葉だと思うのです。
桜が咲き、タンポポが咲き、木蓮が咲く、この春だからでしょうか。
虫たちも目覚め、蝶が舞い、鳥たちの歌声が聞こえる、春だからでしょうか。
はなが、さく。
とりが、うたう。
実に、美しいものです。
されど、満開の桜も、少しずつ散り始めているようです。
その散った枝には、新しい葉の緑が少しずつ見え始めています。
咲いた花は散り、そして新緑がめばえる。
鳥は歌い、春は過ぎていくようです。
はながさく。
とりがうたう。
はなが、さく。
とりが、うたう。