私がカウンセラーとして師事しております、根本裕幸師匠の新著「兄弟姉妹の心理学 弟がいる姉はなぜ幸せになれないのか」(WAVE出版、以下「本書」と記します)の書評を。
1.本書の概要
本書は、兄弟姉妹の関係性における心理学について、述べられたものです。
一般的には、親との関係性が人間関係の構築に大きく影響するとされますが、兄弟姉妹(一人っ子も含む)の関係性が、多くの人間関係に影響しています。
本書においては、さまざまな具体例から、そうした兄弟姉妹の心理について説明し、「なぜそうした問題が起こるのか」ということについて、分かりやすく説明されています。
本書を読むと、自分自身の考え方や人間関係のパターンについて振り返ることができます。
そしてなによりも、パートナーや家族といった大切な人たちを理解し、より親密な関係性を築いていくことができるようになると思われます。
2.兄弟姉妹の心理学
人間関係に影響をおよぼす3つの関係
心理学に触れたことのある方なら、「いまの人間関係の葛藤や問題が、親との関係にいきつく」という話は聞いたことがあるかもしれません。
私たちが一番最初に関係性をつくる他人が「親」ですから、その影響は非常に大きなものがあります。
私も、自分自身を振り返ってみても、我が子を見ていても、それは強く感じます。
しかし、「親」以外にも、その人の人間関係や価値観、ものの見方、あるいは生き方に影響を及ぼす関係があると、本書の冒頭ではいいます。
- 親子関係
- 思春期の頃の人間関係
- 兄弟姉妹の関係
この3つが重なり合って、その人のいまの人間関係、あるいはそこで抱える問題なんかをつくり出したりすると、本書では述べられています。
たしかに、私がカウンセリングのなかでお話をお伺いしていく中では、ほとんどがこの3つのいずれかの関係性における葛藤が、テーマとして出てきます。
このうちの「親子関係」と「思春期の頃の人間関係」は、人とのかかわりにおける「上下の関係」に影響を与えます。
たとえば、父親との間に葛藤があると、会社での上司との関係にも、それが反映されたりする、ということが起きたりします。
一方、3番目の「兄弟姉妹の関係」は、「横のつながり」に影響を与えます。
たとえば、同級生や仕事の同僚などの関係性、あるいは恋愛におけるパートナーとの関係性にも、大きく影響していると本書は言います。
もちろん、すべてのケースに当てはまるわけではありませんが、兄姉はしっかり者になってリーダー役に、末っ子の弟妹は人懐っこい所作でみんなに可愛がられるタイプになることが少なくありません。
それはまるで、子ども時代に家庭の中で担っていた役割が学校や社会の中でも引き継がれ、そこにうまく収まるようにしくまれているかのようです。
本書 p.18,19
しかし、「きょうだいを許すのは、親を許すよりも難しい」と言われることがある通り、それは非常に難しい関係性であることも、また事実のようです。
本書は、その3番目の「兄弟姉妹の関係」における心理にフォーカスしています。
家族が担う「5つの役割」
さて、そうした「兄弟姉妹の関係」を考える上で、前提となるモデルがあります。
家族が担う「5つの役割」というものです。
- ヒーロー/ヒロイン
- 犠牲者
- 傍観者
- 問題児
- チャーマー
それぞれに役割があり、家族の中において、誰もが一つ以上の役割を担います。
そして、それは固定されたものではなく、時とともに変わっていくものでもあります。
字面だけ見ると、「ヒーロー/ヒロイン」がよくて、「問題児」はダメな感じがしますが、決してそうではありません。
「ヒーロー/ヒロイン」は正しさにこだわる傾向があり、常に孤独感と背中合わせであり、失敗や挫折を怖れるという弱さがあります。
一方で「問題児」は、さまざまな問題を引き起こしますが、それは家族全体が抱える問題を顕在化させている、と見ることができます。
「問題児」が見せてくれる問題を、その個人の問題としてではなく、家族の一人一人が自分自身の問題として向き合うと、家族がより親密になり、より幸せな状態へと至ります。
つまり「5つの役割」は、舞台の上で役者が演じる役割と同じように、どの役割も欠かすことができない、といえます。
面白いのは、これは家族に限った話ではなく、人が集まると必ずこの「5つの役割」が生まれる、という点です。
なので、たとえば仕事の上でのチームビルディングを考える上においても、非常に重要な視点になります。
そうした意味においても、「兄弟姉妹の心理」を学ぶことは、あらゆる人間関係に応用できる、といえるのかもしれません。
3.兄弟姉妹の基本心理
一言で「兄弟姉妹」とはいっても…
さて、そうした「兄弟姉妹の関係」ですが、一般化するのが非常に難しい、という点があります。
生まれた順番。
きょうだいの人数。
その年齢差。
両親の性格
住んでいた地域の特性。
そうしたことが複雑に絡み合っているのが、兄弟姉妹の関係性であり、心理であるといえます。
たとえば、次女であっても、上が兄なのか姉なのかで、全く違ってきます。
あるいは、弟や妹がいるかどうか、その年齢差はどうか。
はたまた、親との関係はどうだったのか。
…などなど、「次女」という単純なカテゴリーをつくることができないのも、兄弟姉妹の関係の難しいところです。
百人いれば、百通りの「兄弟姉妹の関係」があるといえます。
なので、語ることが多くなりすぎるのも、この「兄弟姉妹の心理」の特徴なのでしょう。
「4つの基本の型」、そして「中間子」
しかし、その中でも本書は、4つのパターンに分けて「兄弟姉妹の心理」を解説しています。
それは、「兄×弟」、「姉×妹」、「兄×妹」、「姉×弟」という4つの基本の形です。
どのような兄弟姉妹であれ、まずは前半の4つの型にあてはめて考えることができます。
先に生まれたのか、後なのか。
そして、性別が同じなのか、ちがうのか。
それによって、形成される関係性も違ってきますが、本書はその基本的なパターンと心理を、詳しく説明してくれます。
たとえば、私がそうである「姉×弟」のパターンにおいては、非常に頷く箇所が多かったです。
もし、父親の家庭内における立場が弱い場合、あるいは仕事人間で家の中での存在感が薄い場合、弟の男性性はあまり育ちません。
なぜなら、身近なところに男のロールモデルがいないからです。そうなると、弟はどちらかというと「優しくて女性的な雰囲気を持つ男性」になります。
そういう男性は女性とは無理なく親しくなれるのですが、男性とはどう距離を詰めればいいのかわかりません。
本書 p.125
…うむ、私の父は仕事熱心で、単身赴任で家にいない時期も多かったものです。
だからでしょうか…いや、これ以上ここで深掘りするのはやめておきます笑
そしてこの基本の4つの型に加えて、さらに3人以上のきょうだいの場合や、「中間子」という存在の心理について、本書では掘り下げていきます。
また、中間子はいわば「中間管理職」のような存在で、上からは圧力をかけられ、下からは突き上げられるポジションです。
したがって、実はとても繊細で、場の空気を読む人が多いのも特徴です。
気を遣うタイプに見られないことも多いのですが、これはまわりにそう見せないくらい空気を読むのが上手だということ。
だから、平然と振る舞いながらも、内心はとても傷つきやすいのです。
また、親の目が届きにくいだけに、中間子は根深い寂しさを抱えています。
「私はいつもひとりぼっち」「誰も私のことをわかってくれない」という悩みを抱えている人が多いのです。
本書 p.144
このように、兄弟姉妹の関係から芽生える心情、そして「なぜ」そうなるかを、いくつものケースで説明してくれます。
4.兄弟姉妹と仕事、恋愛
兄弟姉妹の関係と仕事
このように「兄弟姉妹の心理」を見た上で、本書では仕事と恋愛における影響が、詳しく述べられています。
先に書いたように、兄弟姉妹の関係性、そして「家族の5つの役割」のいずれかを担います。
それが、仕事という場面では色濃く投影されます。
何でも抱え込み、がんばりすぎるヒーロー/ヒロイン。
リーダーと対立する兄・姉。
チーム内でも居場所がない中間子。
全体を俯瞰できる第一子。
チームになじめない一人っ子。
後輩の存在に戸惑う弟妹。
それぞれの役割、ポジションが陥りやすい問題点と、それぞれが持つ価値や魅力の両方が、詳しく解説されています。
それぞれに、具体的な例が挙げられていて、分かりやすい説明がされており、容易に自分の立場にフィードバックして考えることができます。
兄弟姉妹の関係と恋愛
そして、この兄弟姉妹の関係が恋愛に与える影響についても、詳しく述べられています。
兄と彼とを天秤にかけてしまう妹。
「男性」に強く出過ぎてしまう、弟がいる姉。
なぜか格闘技になってしまう姉×兄の恋愛。
優柔不断な弟とブラコンな妹の進まない恋。
面白いのは、当てはまらないところは「ふーん」と読み進められるのですが、自分に当てはまるとこは、「うへぇ…」と詰まってしまうんですよね笑
とはいえ、それはとりもなおさず、良好なパートナーシップを築くためのヒントといえるのでしょう。
そうしたヒントが、本書には随所に散りばめられています。
5.大切な人を理解し、ゆるすために
さて、ここまで本書で述べられている「兄弟姉妹の心理」について、見てきました。
最後に、本書で「兄弟姉妹の心理」を知る意義について、私なりの意見を書いてみたいと思います。
もちろん、「兄弟姉妹の心理」を学んだ結果として、仕事の上での人間関係が良好になったり、あるいはパートナーシップを深めることができるようになっていくとは思います。
それも、もちろん本書で「兄弟姉妹の心理」を学ぶことの果実なのですが、それだけにとどまるものではないように思います。
根底にあるのは、やはり「大切な人を理解し、ゆるすこと」のように思います。
それは、他の誰でもなく、自分自身のためにすることです。
私たちは、生まれた順番、きょうだいの人数を選ぶことはできません。
そして、自分に与えられた、ただ一つの立場をもとに、周りの人を見てしまいがちです。
けれども、当たり前のことですが、目の前にいる人は、自分とは全く異なる「兄弟姉妹の関係」を持っています。
そこで、自分の我を通そうとすると、対立や葛藤となって、自分を苦しめてしまうかもしれません。
そこで、目の前の相手を理解するための一つの視点として、「兄弟姉妹の関係性、その心理」を使うことができると、世界は少し違って見えます。
それを、「許し」と呼ぶこともできるし、「癒し」と呼んでもいいのでしょう。
それは相手のためにするものもなく、自分自身が幸せに生きるためにするものです。
もちろん、自分自身がそうなると、周りの大切な人も、そうなっていくのですけれどね。
先に書いたように、心理学では「親との関係」はよく言われるところです。
もちろん、それは非常に大切な視点です。
それに加えて、本書が語る「兄弟姉妹の関係性、その心理」について知ることもまた、非常に大きな意義があると思います。
本書は、そんな「許し」や「癒し」にいたる、たいせつな道しるべ。
そんな書籍なのかもしれません。
〇著者のブログでのご紹介はこちら。
〇出版を記念したセミナーがYoutubeアーカイブにあります!
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ぜひ本書とあわせてご覧ください!