大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

書評:根本裕幸さん著「ひとりで生きちゃう武闘派女子が頼って甘えて幸せになる50のトレーニング」に寄せて

私がカウンセラーとして師事しております、根本裕幸師匠の新著「ひとりで生きちゃう武闘派女子が頼って甘えて幸せになる50のトレーニング」(小学館、以下「本書」と記します)の書評を。

1.「頼れない」あなたを変える50のトレーニング

本書の帯には「頼れないあなたを変える」という言葉があります。

そのキャッチコピーの通り、本書は「なぜか人に頼れない」という人、特に女性に向けての小説であり、実用書であり、バイブルといえます。

「頼れない」というのは、必ずしも悪い意味ではありません。

逆から見れば、「誰かに頼らなくても、自分の力でなんとかやってきた」といえるからです。

そうした女性を指して、著者が称した「自立系武闘派女子」という言葉は、まさに言い得て妙です。

男性社会の中でたくましく、強く、頭角を現していく女性たち。

男性に頼るのではなく、精神的にも経済的にも自立を目指す女性たち。

自分から積極的に行動し、仕事でも恋愛でも成果を挙げていく女性たち。

夫に養ってもらうのではなく、夫婦平等で自分の食い扶持は自分で稼ぐ女性たち。

時には男性と戦いながら、その持てる情熱をフルに発揮して道を切り開いていくかっこいい女性たち。

本書p.2

そうした女性像が珍しくなくなってきたのは、社会のありようの変化と、時代の流れといえるのでしょう。

そうした女性たちは、女性としてのみならず、人としての魅力にあふれているにもかかわらず、なぜか生き方に葛藤したり、何か問題を抱えたり、行き詰ったりすることが多いものです。

おそらくそれは、これまでそうした生き方で幸せになったロールモデルが少ないこと、そして彼女たちの親世代の価値観との大きな相違が、その原因として挙げられるでしょうか。

たとえば、仕事にしても、結婚にしても、出産・子育てにしても。

彼女たちと、その親世代との価値観の相克は、その前の世代よりもずっと大きいもののように思われます。

(もちろんそれは、そうした女性と関わる、我々男性にも同じことが言えるのですが)

いわば、「こうなるといい」「こうするべし」という画一的な目標や価値観、モデルが失われた中で、それでも自分の力でなんとかしようと努力しているのが、「自立系武闘派女子」と称される女性なのでしょう。

彼女たちは女性としてのみならず、人としてもとても魅力的なのですぐに幸せになれそうなのですが、その生き方の手本となる人たちが少ないものですから、頑張っているのに報われなかったり、その頑張りが空回りしたり、社会の仕組みの中でもがいている姿を拝見してきました。

したがって私は彼女たちがどうすれば幸せになれるのか?そのためには何をしたらいいのか?をずっと考え、提案し続けることになりました。

本書p.3,4

どうやったら、そうした女性が自分らしく、幸せに生きることができるのか。

もちろん、そこに画一的な答えは、ありません。

自分なりの幸せを、自分が見つけて、育てていくしかありません。

ただ、2000年からカウンセリングを続けておられる著者が、その中で見つけたいくつかのロールモデルがあり、そこに共通するキーワードが「人に頼る」、といことなのでしょう。

だから、「頼れないあなたを変える」という言葉が出てくるのであり、そのために著者の知る効果の高い50のトレーニングを紹介してくれるのが、本書です。

2.ものがたりの持つ力

そうした意味で、本書は実用書ではあるのですが、「ものがたり」として語られます。

主人公になるのは、3人の女性。

いずれもタイプは異なりますが、生粋の「自立系武闘派女子」であることは変わりありません。

仕事と家庭の両立するために、いくつものタスクを同時にこなしてく器量を持つ芽依さん。

同僚や恋人、周りの人を気遣うあまり、相手の要求を叶えてあげようとする器の大きな卯月さん。

受験や就職活動で負け知らず、仕事の上でも猛烈に成果を出し続ける情熱的な紅緒さん。

けれど、「生きづらさ」「しんどさ」「重苦しさ」といったものを、彼女らはまた抱えていました。

そんな彼女たちがふと訪れた喫茶店のマスターとの対話から、本書のものがたりは始まります。

現代に生きる女性であれば、上の3人のどこかに、自分の姿を重ねる部分があることと思います。

そういった意味で、本書は何かを教えてくれるだけの実用書(もちろんそれはそれで素晴らしいです)ではなく、自分自身のものがたりとして読むことのできる小説でもあるのでしょう。

いつの時代も、人は演劇やドラマ、小説といったものに、心を寄せてきました。

それは、そこに紡がれるものがたりが、自分自身のものがたりであるからです。

もちろん、本書に登場する3人の女性は、架空の女性です。

けれども、それは著者がカウンセリングの中で出会った女性たちの「原型」ともいえる存在であり、それは同じ現代を生きる私たちの分身でもあります。

この3人の女性が、どのような悩みを抱え、葛藤し、そしてマスターとどんな対話をして、そのトレーニングがどんな変化をもたらすのか。

それを、自分自身のものがたりとして、読めるのが本書なのでしょう。

3.緩むことで、その人らしさが滲み出てくる

さて、冒頭で述べた通り、本書の50のトレーニングで勧められているのは、「頼れるようになること」です。

心理的に見れば、「自立」を手放していくために、女性性を解放して傷ついた男性性をを癒していくプロセス、と言えるでしょうか。

先に書いた通り、本書の登場人物たちの「自立系武闘派女子」は、「自分一人でなんでもやってきた」「他人のことまで、やってきた」「誰にも負けずにやってきた」人たちなんですよね。

誰の中にでも、男性的な部分と女性性があります。

男性の中にも女性性と呼ばれる部分があり、女性のなかにも男性的な部分があります。

本書の主人公の3人は、このなかの「男性的な部分」を必要以上に使ってしまい、それが歪んだ形でバランスを崩してしまった結果が、さまざまな問題や生きづらさとなってしまっています。

男性的な部分というのは、力強さ、忍耐強さ、決断力、持続力、知性や論理、こだわり、責任感といったものを指します。

手っ取り早く言ってしまえば、「がんばること」なわけです。

ただ、薬も度を超すと毒になるように、男性性もまたそこばかりに傾倒すると、バランスを崩してしまうものです。

これが、「自立系武闘派女子」が抱える生きづらさの要因の一つなのですが、本書で紹介されているトレーニングは、このバランスを整えてくれるものです。

Training3:1日1回弱音を吐いてみる

Training8:部屋に花を絶やさない

Training13:ほんとうは誰に甘えたかった?

Training15:甘え方をアップデートして、大人の甘え方を習得する

Training22:毎日自分を10個褒める

Training49:甘え上手なムカつく後輩を今日から「師匠」と呼ぶことにする

本書より

…などなど、実にさまざまなトレーニングが紹介されています。

「弱音を吐いたら、もう吐きっぱなしになっちゃいそう」と思われるかもしれません。

けれど、そうじゃないんですよね。

本書のトレーニングは、「がんばらなくてもいい」というわけではないんです。

崩れてしまったバランスを、もう一度取り直すためのトレーニング、と考えてみる方がいいのでしょう。

片方に傾いたシーソーを、もう一度平行に戻すには、もう片方に「えいやっ」と体重をかける必要があるように。

そこでバランスが取れたときに立ち現れるのは、「がんばらない」「がんばれない」自分ではありません。

自分らしさ、なんですよね。

がんばりかたが、その人らしい、というか。

主人公の3人が、どのように自分らしさを取り戻していったのか、ぜひ本書を読んでみていただければと思います。

4.その人の持つ愛への「驚き」という視点

ものがたりとしての、本書。

50のトレーニング集としての、本書。

そんな本書を通底しているのは、「その人の持つ愛への『驚き』という視点」です。

「驚き」というか、違和感と言い換えてもいいかと思います。

「なんで幸せになれないんだろうね?」とカウンセラーである私自身が悩んでしまうほど魅力的なのです。

本書p.238あとがき

この一文に、著者の本書への想いが集約されているように感じます。

「なぜ、こんなにも美しい愛を持っている人が、仕事や恋愛でうまくいかなかったり、葛藤したりしなくてはいけないのだろう」

それは違和感でもあり、ある意味で義憤のような想いでもあり、それはやはり愛といえるのかもしれません。

私自身も、カウンセリングでお話を伺うなかで、「こんなにも大きな愛、あふれんばかりの魅力をお持ちの方なのに、なぜ?」と感じることが多々あります。

著者がその「驚き」、あるいは違和感をずっと解決しようとしてきた一つの答えが、本書なのではないでしょうか。

「驚き」の大敵は、「慣れ」です。

「そんなもんか」と思った瞬間に、「驚き」は当たり前になります。

その「驚き」は、棋界のレジェンド・羽生善治先生の有名な言葉が想起されます。

報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションをもって継続しているのは非常に大変なことであり、私は、それこそが才能だと思っている

「決断力」羽生善治著、角川新書より

カウンセリングをしていると、無力感に苛まれることは少なくありません。

「なんで幸せになれないんだろうね?」

その「驚き」の瑞々しさを、無力感に負けず年月を重ねても持ち続けることは、簡単なことではありません。

けれど、それらカウンセラーとして何よりも大切なことのように感じます。

私もまた、カウンセリングを続けていくなかで、その瑞々しい「驚き」を持ち続けていきたい。

本書を通じて、そんなことを感じました。

 

この3人の物語を通じて皆さまが自分と向き合って「自分らしい自分って何だろう?」と考えるきっかけになり、主人公たちと共に幸せになっていくことを祈っています。

本書p.239

ひとりで生きられるほど、何ごとも自分の力でがんばってきた「自立系武闘派女子」の皆さんが、いつの間にか纏ってしまった鎧を脱いで、自分らしく幸せに生きること。

それを手助けしてくれる本書を、ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか。

〇著者のブログでのご紹介はこちら。

nemotohiroyuki.jp

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