写真がたくさん載った科学図鑑が、私の実家にはありました。
図鑑、といっても、そんなに分厚くなくて、小学校の低学年でも読めるくらいの本でした。
動物、昆虫、宇宙…どの図鑑にも、綺麗な写真がたくさんあって、小さな私は飽きずにそれを眺めていたものでした。
その中でも、特に心惹かれたのが、「ペンギンのくに」という図鑑でした。
南極に生息するペンギンたちを、絶景もいえる写真とあわせて、教えてくれる図鑑でした。
見渡す限りの雪原、そびえ立つ真っ白な山。
氷を砕いて接岸しようする、南極探査船。
海辺でゴロゴロとするアザラシ。
天敵のいない真冬に子育てをするコウテイペンギン。
まるでSF映画のワンシーンのような南極の絶景に、飽きもせずにページをめくったものでした。
図鑑の対象年齢から外れても、その「ペンギンのくに」をずっと大切に持っていたものでした。
当時、ヒットした映画に「南極物語」があったのも、大きかったのかもしれません。
学校の図書館に、「南極物語」の漫画版があり、これも何度も何度も繰り返し借りて読んだものでした。
なぜ、あんなにも南極、そしてペンギンに惹かれたのでしょうか。
この世の果てのような、絶景。
マイナス50度を超えるような、猛吹雪の世界。
その中で暮らす飛べない鳥、ペンギン。
その厳しい環境にありながら、なぜか妙に愛嬌があり。
それでいて、コウテイペンギンなどは、真冬に産卵し、2ヶ月ほど絶食しながら、子育てをする。
なんと、不思議な生き物なのでしょうか。
ネットの検索などなかった時代のこと、その図鑑に書かれた内容を、隅から隅まで読んでいたことを思い出します。
ブリザード(猛吹雪)が吹くと、ペンギンたちは「おしくらまんじゅう」をして、体温を保つようにするとか。
オスのペンギンは、巣作りに使う「石」を求愛の証として、メスのペンギンに渡すとか。
コンパスも何も使わないのに、なぜか毎年同じ場所に、同じ時期に産卵に集まってくるとか。
そんな、日常生活ではまったく関係のないことばかりを、よく覚えていたものでした。
そんな小さな私が、中学生になったころでしょうか。
私の家から一番近い、ペンギンがいる水族館に一人で行ったことを、思い出します。
ペンギンは、図鑑で見た通り、愛嬌たっぷりで。
ほんとうに、こんな生き物があったんだと、感慨深かったことを思い出します。
歳を重ねて、子どもたちと水族館を訪れるようになっても、私のお気に入りは、やはりペンギンのようで。
いつもペンギンの前で、幼い日々を思い出すのです。
それはどこか、愛されていた日々の記憶のようにも思うのです。