学生の4年間、私は神奈川県に下宿していました。
お盆と正月あたりには、愛知県の実家に帰省していたのですが、お金のない学生あるあるで、友人と青春18きっぷを一緒に買って、普通列車で帰ったことが何度かありました。
「積ん読」になっていた文庫本を、何冊かカバンに入れて、一人ぶらりと電車に揺られる旅。
特に乗り換え時間などを調べることもなく、来た電車に乗る、そんな気楽な旅でした。
調べてみると、下宿先の最寄り駅から実家まで、だいたい8時間くらいでしょうか。
まる一日は、電車に揺られていたような気がするのですが、人間の記憶などあいまいなものです。
とはいえ、ずっと乗っていると、腰が痛くなってくるものです。
空いてきた電車の車内で、立ってみたり、屈伸してみたり、そんなことをしていたように覚えています。
いつも乗っている、下宿先の最寄り駅が、実家の近くの駅までつながっていることが、どこか不思議な感覚がありました。
この線路は、どこまでもつながっているんだろう。
そんな気がしていたものです。
もちろん、始発駅と終点は、あるんですけれどね笑
ずっと電車に揺られていると、そんな不思議な感覚がありました。
夏休みの帰省。
Tシャツ、ジーンズ、スニーカー。
電車の窓の外には、夏の日差しの光が満ちていて。
本を読むのにも飽きると、流れる景色をぼんやりと眺めてみたりするのが、好きでした。
徐々に日が暮れていくと、東海道線の景色はオレンジ色に染まって。
ほどなくすると、灯りがぽつぽつと見える、夜景に変わっていきました。
不思議なのですが、民家の灯りというのは、とてもやわらかな色をしているんですよね。
単に、蛍光灯と白熱電球と、種類の違いだけなのかもしれませんが。
あの灯りの下に、その家に暮らす人たちの営みがあると思うと、なぜだか胸がいっぱいになるようでした。
数えきれないくらいの、灯り。
その一つ一つの灯りの下に、人の暮らしと、その歴史があって。
それを想像していると、その流れる景色をずっと眺めていても、飽きないものでした。
その景色を眺めていると、不思議な感情もまた、流れていくようでした。
とてもあたたかな灯りなのに、どこか、胸が締め付けられるように、切なくなる…
ある感情は、その正反対の感情と、とても近い場所にあるのかもしれません。
ただ、その流れる景色を眺める時間が、私はとても好きでした。
そんな時間を過ごせる旅を、またしてみたいなと思うのです。