あれは、梅雨入りしたのに雨がなかなか降らなかった先月のことだったと思う。
ポストに手紙が入っているのを見つけた。
差出人を見ると、お世話になっている大切な方からのお手紙だった。
けれど、見慣れない紙が輪ゴムで一緒にくくられていた。
読むと、郵便局からの「切手料金不足」の案内だった。
曰く、切手料金が不足してますが、一旦届けます、と。
受け取り拒否の場合は、そのままポストに返送してください、受け取る場合は不足金額の切手をこの用紙に貼ってポストに投函してください、と。
ふと見返すと、その手紙には切手が貼られていなかった。
慌てて出して、貼り忘れたのかな、と微笑ましくなり、私は82円切手をその案内に貼ってポストに投函した。
手紙は、先日持って行ったお土産の御礼だった。
切手の貼られていないその手紙を見て、私は何度もほっこりした。
後から気づいたのだろう、その翌日あたりに、その差出人の方から、私のスマホに「もしかして…切手貼ってないですよね…」とメッセージが入った。
あぁ、全然いいですよー、切手貼り忘れるほど、早く投函したい気持ちが伝わりましたよー
と笑っていたが、至極恐縮されていた。
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そんなことも忘れて、月も替わった昨日のこと。
梅雨はまったく明ける気配もなく、曇りと雨の日ばかりで晴れ間の見えない、7月の中旬だった。
そのやりとり以来にその方とお会いしたところ、「この前はすいませんでした、これ、よかったら使ってください」とこのシートを渡された。
82円切手のシート。
海のいきものシリーズという、これまたほっこりする切手たち。
そんなこと全然いいのに、と申し訳なさも感じつつも、私がよく手紙を書くことを知っているためだろうと思い直し、せっかくのご厚意を遠慮なく受け取ることにした。
さて、シートを受け取ったはいいものの、たくさんの切手を何に使おうかな、と考えながら、その方と別れた。
その後、ふらりと寄った百貨店で、あるものが目に入った。
やまつ辻田さんの夏の辛口七味、「暑気払い」。
辻田さんの銘品・極上七味と名代柚七味の、夏にぴったりの辛口バージョンで、「厄除・招福」を祈願した不動明王が描かれたパッケージ。
82円切手を貼れば、大切な人への夏のご挨拶、暑中見舞いに使える素晴らしい逸品。
これだ。
すぐに「暑気払い」を買い込んだ私は、頭に浮かんだ大切な方たちへ、暑中見舞いを書った。
もちろん、切手をくださった方へも。
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書き終わり、海のいきものの切手を貼った。
この辛口の暑中見舞いが、私の大切な方のもとへ届くのを想像すると、とてもほっこりとした気分になった。
結局、誰かのミスは、誰かを幸せにするのだろう。
人はよくミスをしないでいよう、完璧でいよう、としてしまうけれど、ミスとは「凹んだ」部分であり、結局それは誰かに「与えさせる」ことのできる部分なのだろう。
それをミスだと思っているのは、ミスした本人だけなのかもしれない。
それは、欠点や短所と同じことだ。
切手を貼り忘れてくれたおかげで、素敵な暑中見舞いを送ることができた。
貼り忘れてくれて、ありがとうございました。
※極上七味・名代柚七味の辻田さんとのご縁はこちらから。