大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

言葉は、時空に打たれた楔(くさび)。

先日、久しぶりにターミナル駅の書店に寄ってきました。

発売となった、「テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち」(星海社新書)が店頭に並んでいるのを、見たくて。

思えば、この書店に足繫く通ったものでした。

何も欲しい本がなくても、時間があると立ち寄って。

気づけば、紙袋を二重にしないといけないほど、買ってしまったり。

自分の興味のあることに導かれるように、ふらふらとしてみたり。

書店は、どこか私のなかの安全地帯だったようにも思います。

それはどこか、Web上で本を買うことと、違う体験があったような気がします。

そんな書店に、自分の書いた文章が、活字になって並んでいると思うと、どこか不思議な感じがします。

いつもの書店が、いつもの書店ではないような。

はやる胸をおさえて、新刊のコーナーに急ぎます。

ありました。

並んでいました。

こんなにも、たくさん並んでいました。

街中で有名人を見かけたように、遠巻きにずっと眺めていました。

そのコーナーを通り過ぎる人が、手に取ってくれたら、どうしよう。

そんなことを考えていましたが、残念ながらそんなことは起きず笑

けれども、これを陳列していただいた書店の方の仕事を、想います。

きっと、荷捌き場でトラックから降ろして、台車に載せて、この8階まで運ばれてきた。

それを、こうして並べていただいた。

執筆から、校閲、デザイン、編集、印刷…実に多くの人の手を経て、ここに並んでいると思うと、涙腺がゆるくなります。

そしてなんと、新書のコーナーでも、並べていただいていました。

2面展開。

ありがたい限りです。

多くの人の手に渡り、読んでいただけますよう。

そんなことを、祈っておりました。


 

今回の「テイエムオペラオー伝説」では、オープニングを書かせていただきました。

オープニングと聞いて、思い出すのは古今集の仮名序です。

やまとうたは、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。

世の中に在る人、事、業、繁きものなれば、心に思ふことを、見るもの、聞くものに付けて、言ひい出せるなり。

花になく鶯(うぐひす)、水にすむ蛙(かわづ)の声をきけば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。

力をも入れずして、天地(あめつち)を動かし、目に見えぬ鬼神をも哀れと思はせ、男(をとこ)女(をむな)の仲をもやはらげ、猛き武人(もののふ)の心をも慰むるは、歌なり。

 

紀貫之

古今和歌集「仮名序」

この仮名序が、私は好きなのです。

力をも入れずして、天地を動かし、
目に見えぬ鬼神をも哀れと思わせ、
男女の仲をやわらげ、
猛き武人の心をも慰める。

それこそが、「歌」である、と。

これほど美しく、言葉を、歌を、そして世界を表現した文章はないように感じます。

千年の時を経ても、その文章を読む私の心に訴えかけるものが、あるのです。

それは私に、言葉というものに対して、畏敬の念を抱かせます。

 

「仮名序」がそうだから、というわけでもないのですが。

自分自身の書いた文章が、こうして活字になること。

そして、その言葉を通して、同じ時代を生きるどなたかの心に、何がしかが届くこと。

それは、特別なことだと思うのです。

もちろん、このブログも、そうなのですけれどね。

けれど、やはり本になるということは、ある種の特別な意味を持ちます。

時の流れのなかで、肉体としての私は、どこかで失われるのでしょう。

紀貫之も、そうであったように。

けれども、その本が、その言葉あるかぎり。

いつでも、そこにアクセスできる。

そう、「仮名序」のように。

それを、永遠、と呼んだりもするのでしょう。

 

言葉は、時空に打たれた楔(くさび)。

 

その楔を、打ち続けていきたいと思っています。

このブログを読んでいただいているあなたの、これまでのご厚情に深く御礼申しあげます。

そして、どうか引き続き、応援のほどをよろしくお願いいたします。

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