「久しぶりじゃないですか」
「ああ」
「…なんか、ダウナーですね。またメンがヘラってるんですか?」
「そういうわけでもないが」
「そういうの、めんどくさいですよ」
「うるさい。落ち込んだり、気持ちの整理をしたり、自分を持て余したり、そんなときに、女性は誰かと話したがるだろう?話すことで、自分の心と頭を整理するだろ?男性は逆で、ひとりになりたがるんだよ」
「まあ、そうとも言いますけど」
「そうなんだよ、実際」
「でも、そういう分類もいいですけど、別に誰かと話をすることで整理するのは女性だけじゃないと思いますよ。ほら、よくビジネスパーソンが使う用語で「壁当て」みたいなの、あるじゃないですか。話を聞いてもらうと頭の中を整理できるのは、男性も同じだと思いますけど」
「ああ、たしかにそうだな」
「だいたい、男の人が『ひとりになりたい』って言うときって、翻訳すると『ばぶぅ』『よしよしちて』『だっこちて』のどれかじゃないですか。ママのおっぱいがほちいのにそれを隠して、しかもママじゃない人にそれを求めるの、めんどくさいですよ、ほんと」
「…ノーコメント。今日は厳しいな」
「ええ、バランスですよ、バランス」
「そうかぁ…おっぱいがほちいのかなぁ」
「知らないですよ、そんなの。アタシに聞かれても。自分の機嫌くらい、自分で取ってくださいよ」
「それがなかなかできないから、世のみんなは苦労するんじゃないか。なかなか自分の本音なんて、自分では分からないよ」
「まあ、たしかに。でも、ほんとに一人になりたいんですかね?」
「ああ、一日海を見てひとりでぼーっとしたい」
「あー、ウソですね」
「なんでだよ」
「別にやろうと思えばやれるのに、それをやらない。それって、ほんとうはやりたくないことなんでしょ?」
「…ぐぬぬ」
「別にこうして油売ってるくらいだから、一日サボって海に行くくらい、何でもないコトなわけですよ。それなのに、あえてそれをやらない。あげくの果てに、『それができればいいなぁ、できたら何か変わるのになぁ』って妄想して、やれない自分を責めてる。そりゃー、それは本音じゃないっすよ」
「うう…そこまで言わんでも…」
「そんな分かりやすいパターンないですよ、まったく」
「うーん、じゃあ俺の本音って何だろうな」
「さあ?アタシには分かりません」
「そうだよなぁ…まあ、でもすこし一人で落ち着いて考えてみるかな」
「アタシ思うんですけど、一人になっても、独りになれないですよ」
「…ほう」
「だって、そうじゃないですか?一人になろうとするなら、必ず他人が要りますから。結局、どう転んだって、あなたは独りにはなれないんですよ、ほんとうのところ」
「一人では、独りになれない」
「そう。どうしたって、他人との関係性の中で生きてるんですから。そんなにも一人になりたかったら、好きなだけ海でも山でも精神と時の部屋でも、行ってくるといいですよ。それでも、あなたは独りにはなれないから」
「ああ、そうかもしれないな…精神と時の部屋、行ってみたいなぁ…」
「えー、アタシは退屈するから絶対イヤです」
「一人になっても、独りにはなれない」
「そうそう。だから存分に一人になるといいですよ」
「ああ、そうだな…独りには、なれない。どうもありがとう」
「どういたしまして。あ、そうそう、感謝の気持ちは、形にするとイイらしいですよ。あ、ちなみになんの関係もない話なんですけど、名駅にTHE ALLEYできたらしいですけど、まだ結構並んでるんですよね。ええ、なんの・関係も・ない・話、なんですけど」
「近くのスーパーでナタデココ買ってくるから、それで勘弁してくれ」
「絶対イヤです」