誰の心の奥の岸辺に、大切に抱えているものがあるとして。
それは夢とか理想とか、そんな御大層な類いのものではなくて。
むしろ他の人はまったく見向きもしなかったり、あるいは早々に捨ててしまったものである場合が多いのかもしれない。
ときにそれは、
母と訪れた市民プールの帰り道に見た逃げ水のゆらぎや、
いつも寝るときに見上げていた天井の隅にあった染みだとか、
飽きるくらいに話した友人との会話の中のほんの一フレーズだったり、
真夏の昼下がりにうたた寝したときのタオルケットの感触だったり、
もういまとなっては集まることもない人たちとの繋がりだとか、
そんな、何の役にも立たないものに、最近どうにも心を奪われるのだ。