母方の祖母の家は、私の実家の近くにありました。
実家から歩いて、子ども足でも10分ほどでしょうか。
そんな距離でしたので、共働きの両親が不在のときなど、よく世話になったものです。
その祖母の家の裏には、小さな庭がありました。
その庭から出ると、小さな川に沿った生活道路とつながっていました。
自動車どころか、自転車が通るのも窮屈な、そんな狭い道路でした。
ただ、買い物に出かけるには便利で、祖母はよくその道路を通って出かけていました。
その小さな庭を通ると、よくクモの巣が顔にひっかかるのが、私は苦手なものでした。
その庭で、祖母は花を育てたりしていました。
長方形の鉢に、色とりどりの花が咲いていたのを、思い出します。
春になると、よくその花の周りを黄色い蝶々が舞っていました。
やわらかな春の日差しのなか、ひらひらと舞うその蝶々の色を、よく覚えています。
祖母の家は、私の通っている学校とは違う学区にありました。
そのため、祖母の家にいるときの私は、一人遊びが多かったように思います。
昆虫を探したり、プラモデルを組み立てて床の間に飾ってみたり、知らない道を探検してみたり。
友達や誰かと遊ぶよりも、一人で何かに遊んでいる時間ばかりが、思い出されます。
その黄色い蝶々が、なぜ記憶に残っているのか、不思議なものです。
それをじっと眺めていたわけでも、ないのでしょうけれども。
庭を通ったり、何かをする拍子に見たその色は、どこか私の心に刷り込まれているようです。
いまはもう、その祖母の家も庭も、なくなってしまったのですが。
あの春の日の黄色い蝶々の色は、まだどこかにあるような、そんな気がするのです。
それがどこなのか、よく分からないのですが。
ただ、その色を見ていた私がいたことだけは、確かなようにも思うのです。
そんな黄色のことなど、誰も気にも留めないかもしれないのですが。
それでも、歳を重ねるごとに。
その黄色だったり、そんな何でもないものが、私にとってはたまらなく、いとおしく感じるのです。