大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

お望みどおりに。 ~2023年 宝塚記念 回顧

1.レース・出走馬概要

新馬戦もスタートし、函館競馬も始まると、気分はもう夏競馬。

その夏競馬の前に、春のGⅠシーズンの締めくくりとなる、宝塚記念が大トリを締める。

阪神2200mという非根幹距離、そして梅雨時期の馬場コンディションも含めて、難解になることが多いレース。

 

前年の年度代表馬、イクイノックス(牡4、美浦・木村哲也厩舎)が春のグランプリに参戦。

3歳にして秋の天皇賞、有馬記念を制したあと、ドバイシーマクラシックでは逃げて圧勝。7馬身差をつけたモスターダフが、その後のプリンスオブウェールズSで勝ったことで、あらためてその勝利の価値を高めたといえる。デビュー以来、手綱を取るC.ルメール騎手とともに、グランプリ連覇なるか。

 

春の天皇賞で、GⅠ初制覇を成し遂げたジャスティンパレス(牡4、栗東・杉山晴紀厩舎)。

2歳時から高く評価されていたその走りが、長距離で覚醒。長い距離でも確実に伸びる末脚で、年明け阪神大賞典からの連勝を決めた。鮫島克駿騎手に手綱が戻り、春のGⅠ連勝なるか。

 

昨年、同条件のGⅠエリザベス女王杯を制したジェラルディーナ(牝5、栗東・斉藤崇史)。

その後の有馬記念でも3着と好走。この春は大阪杯から果敢に香港遠征を敢行。いずれも掲示板は外したものの、牡馬を相手に健闘を続けている。重賞2勝を挙げている2200mに戻っての巻き返しを図る。鞍上は武豊騎手は初騎乗。

 

昨年の菊花賞馬、アスクビクターモア(牡3、美浦・田村康仁厩舎)。

安定した先行力で、三冠最後の一冠を奪取したが、この春は日経賞で出遅れ9着、天皇賞(春)ではハイペースを追走して11着と大きく崩れた。いずれも敗因は明確に見えるだけに、横山武史騎手とグランプリでの雪辱を狙う。

 

その他にも、長距離実績十分のディープボンド(牡6、栗東・大久保龍厩舎)、昨年のジャパンCを制したヴェラアズール(牡6、栗東・渡辺薫彦厩舎)、帝王賞との両睨みからこちらを選択してきた皐月賞馬・ジオグリフ(牡4、栗東・渡辺薫彦厩舎)など、中距離の頂上決戦にふさわしい17頭が揃い、春のグランプリを盛り上げる。

2.レース概要

曇天模様ながら良馬場での開催も、インコースはやや荒れ気味のコンディション。

スタートでやや後手を踏んだのはジェラルディーナ、スルーセブンシーズ、モズベッロあたり。

1コーナーまでの長い直線を使っての先行争い、外から押してユニコーンライオン、そしてドゥラエレーデあたりが主張。

注目のイクイノックスは行きたがる素振りを見せるも、外から先行勢が主張したことで徐々に後方に下げざるを得ない形に。

ジャスティンパレスも、あまり行き脚がつかずに後方からの競馬。

向こう正面に入りユニコーンライオンが先頭をキープ、5番手あたりの好位にアスクビクターモア、その内にダノンザキッド。

ディープボンド、ジオグリフあたりが中団を形成、そしてジェラルディーナ、イクイノックスは後方からの態勢。

前半1000mは58秒9とやや前がかりのペース。

ただ差しの決まらない傾向からか、武豊騎手は3コーナーに入る前あたりでジェラルディーナを捲り気味に動かしていく。

それに追従するイクイノックス、しかし完全に好位まで押し上げるまでには至らず、ジャスティンパレスの後ろで一呼吸を置く。

 

直線を向くと、内からアスクビクターモアが先頭をうかがうも、ジェラルディーナの脚色がいい。

しかし、外から赤い帽子、イクイノックスが飛んでくる。

内からは馬群を割ってスルーセブンシーズが伸びてくる。

しかし、イクイノックスの脚色は衰えず、大外から先頭でゴール板を駆け抜けた。

1着イクイノックス、2着に内から伸びたスルーセブンシーズ、そして外から伸びたジャスティンパレスが3着を確保、以下ジェラルディーナ、ディープボンドまでが掲示板を確保した。

3.各馬戦評

1着、イクイノックス。

GⅠ4連勝のゴールは、秋春グランプリ連覇の偉業達成となった。

3コーナーあたりでは「これで勝ち切ってしまったら、怪物だろう…」と思ったが、その通りになってしまった。

スタートで若干行き脚がつかずに外から被せられ、それでも行きたがるという、難しい展開だったが、ルメール騎手が落ち着いて下げて、後方からの競馬を選択。

馬場のいい外目をエスコートして、仕掛けもジェラルディーナ、ジャスティンパレスを見ながら絶妙のタイミングでスパート。

この引き出しの多彩さは、まさにルメール騎手の名人芸。

そして何より、イクイノックス自体が、外を回すコースロスもものともせず、差し切った強い競馬だった。

これで、逃げ、先行、差し、追い込みと、脚質不問で勝利を重ね、東京、中山、ドバイ、阪神と馬場も関係なし。

この宝塚記念は、過去単勝1倍台に支持された名馬たちが敗れてきた難しい舞台でもあるが、その舞台で勝ち切った価値は高い。

まさに、オールマイティの強さを見せつけ、世界1位のランキングに偽りがないことを改めて誇示した。

この自在性の高さは、父・キタサンブラックから受け継がれたものか。

その父が勝てなかった宝塚記念で、見事に勝ち切った。

すでに発表されているように、秋はジャパンCを最大目標とするとのこと。

まずは、無事に。

この名馬の走りを、また見られることを楽しみにしたい。

 

2着、スルーセブンシーズ。

GⅠ馬8頭が揃うメンバーの中、10番人気での「激走」。

グランプリ男・池添謙一騎手は、完全に「狙っていた」のだろう。

入線後、心底悔しそうに頭を下げる姿が、印象的だった。

早めに動いた有力馬の後ろから進出したが、直線で進路がなくなるロスがあった。

難しいところだが、その溜めがあったからこそ、上り最速の末脚を繰り出せたのかもしれないし、ロスが無ければもっと勝ち馬にも肉薄していたのかもしれない。

秋には凱旋門賞に登録しているが、世界ランキング1位のイクイノックスに迫った脚を、世界の舞台でも見せられるだろうか。

秋を、楽しみにしたい。

 

3着、ジャスティンパレス。

先着した2頭と同じく、後ろからの競馬を選択。

荒れた内の馬場を避けて、外目外目を選んだ鮫島騎手のコース取りも効いていたか。

3コーナーではあまり手応えがよくないように見えたが、直線では最後に伸びてきて馬券内を確保。

秋の中距離戦線が、楽しみになる走りだった。


 

どんな走りも、お望みどおりに。

2023年宝塚記念、イクイノックスとC.ルメール騎手が制した。

 

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