1.レース・出走馬概要
清明を過ぎ、風が薫りだすころ。
緑映える春の中山で施行される、牡馬クラシック第1弾、皐月賞。
中山2000mを舞台に、3歳牡馬がその豊かなスピードを競う。
2023年の今年は、昨年の2歳GⅠを制した2頭がともに出走せず。
朝日杯FS勝ちのドルチェモアはマイル路線へ、そしてホープフルS制覇のドゥラエレーデはUAEダービー2着からケンタッキーダービーを目指していたが、体調が整わずに日本ダービーに向かうとの報があった。
GⅠ馬が不在、さらには出走メンバーには重賞2勝馬もおらず、混戦模様のクラシック一冠目となった。
近年の皐月賞と関連の深いGⅢ共同通信杯で重賞初制覇を飾った、ファントムシーフ(牡3、栗東・西村真幸厩舎)。
昨年末のホープフルSでは4着に敗れたものの、共同通信杯ではハイレベルなメンバーを相手に完勝。好位を取れる器用さは、むしろ中山でこそ活きるか。鞍上は、前走に続いてC.ルメール騎手。
その血に注目したいのが、トップナイフ(牡3、栗東・昆貢厩舎)。
3代母のワンスウエドは、99年皐月賞を制したテイエムオペラオーの母。その牝系に新種牡馬デクラレーションオブウォーを配した同馬は、この皐月賞で9戦目と近年にしては珍しい臨戦過程。
ホープフルSでは逃げ粘ってのハナ差2着、GⅡ弥生賞ディープインパクト記念では好位から進めて直線差し返しての2着と地力の高さを見せた。積み重ねた経験が、この本番で輝くか。鞍上は前走から続いて横山典弘騎手。
その弥生賞ディープインパクト記念を制したのが、タスティエーラ(牡3、美浦・堀宣行厩舎)。
父サトノクラウンとの父子制覇となった弥生賞では、積極的な競馬でトップナイフを振り切った。同じコースで行われる皐月賞で、その再現成るか。鞍上は前走に続いて松山弘平騎手。
先週のGⅠ桜花賞を制した川田将雅騎手は、ダノンタッチダウン(牡3、栗東・安田隆行厩舎)と挑む。
デビューから3戦すべてで上がり3ハロン最速をマークしている、その末脚は世代屈指。昨年のGⅠ朝日杯FS(2着)から直行となるが、その切れ味抜群の末脚が、来年定年を迎える安田隆師にクラシックを届けるか。
トライアルのGⅡスプリングSで無傷の3連勝を飾ったのが、ベラジオオペラ(牡3、栗東・上村洋行厩舎)。
1800m戦を中心に使われ、スプリングSでは重馬場のなか、メンバー最速の上がりを繰り出して勝利。東京、阪神、中山と異なる馬場で勝ち切るのは、能力の高さの証か。鞍上は田辺裕信騎手に乗り替わり。
快進撃が続く種牡馬キタサンブラックが送りだすのが、ソールオリエンス(牡3、美浦・手塚貴久厩舎)。
年明けのGⅢ京成杯は、スローペースの中団から出走馬中最速の上がりを繰り出して快勝。それ以来3か月ぶりの実戦となるが、ダービーを睨んだローテーションとして今後の先達となるか。横山武史騎手が導く、その決め手に注目が集まる。
フリームファクシ(牡3、栗東・須貝尚介厩舎)は、GⅢきさらぎ賞勝ちから挑む。
逃げた新馬戦こそ後続に差されての2着となったが、その後は好位から競馬で3連勝、重賞制覇となった。前向きで先手を取りやすい気質で、ポジションを取っての競馬に期待がかかる。鞍上は短期免許で来日中のD.レーン騎手。
その他にも、すみれSでの決め手が光ったシャザーン(牡3、栗東・友道康夫厩舎)、共同通信杯2着のタッチウッド(牡3、栗東・武幸四郎厩舎)、新馬戦・若葉Sを連勝したマイネルラウレア(牡3、栗東・宮徹厩舎)など、まさに混戦模様。
2023年の牡馬クラシック戦線、一冠目の栄冠を勝ち取るのは、どの優駿になるのか。
2.レース概要
猫の目のように変わるこの時期の天候、レース前にも降雨があり、馬場コンディションは重で発走時刻を迎えた。
重馬場の皐月賞は、あのハイセイコーが勝った1973年から、50年ぶりとなった。
ややばらついたスタートから、逃げ宣言のグラニットが前へ。
タスティエーラも自然な形で先行、それに外からべラジオオペラ、タッチウッドあたりも先手を主張。
ファントムシーフは五分のスタートから徐々に下げて中団後方へ、トップナイフ、ソールオリエンスはさらにその後方からで1コーナーに入っていく。
やや縦長の展開、そして内外のコース選択が各騎手により明確に分かれる、横にも広がった展開。
向こう正面でタッチウッドが行きたがり、グラニットをつついたことも影響したのか、前半1000mを58秒5で通過。
馬場を考慮すると、かなりのハイペースになったか。
3コーナーに差し掛かり馬群が縮まるが、コース選択により横に大きく広がる展開。
グラニットにタッチウッドが並びかけて、直線を向く。
馬場の外目を通って伸びたタスティエーラが、前を交わしにかかる。
そのさらに外から前を追う、メタルスピードとファントムシーフ。
しかし、大外から一頭だけ違う脚色を伸ばしたのが、ソールオリエンス。
暴風のごとき末脚は、残り100mを切ると一気に前を捉え、先頭まで突き抜けた。
左拳を突き上げる横山武史騎手。
勝ち時計は2分0秒6。
2着にタスティエーラ、3着にファントムシーフが入線。
4着メタルスピード、5着ショウナンバシットまでがダービーの優先出走権を獲得した。
3.各馬戦評
1着、ソールオリエンス。
4コーナー17番手から、驚愕の差し切り勝ち。
暴風のごときその末脚は、ドゥラメンテ、テイエムオペラオーといった名馬の皐月賞を想起させてくれた。
史上初めて、京成杯から直行で皐月賞を制した馬は、史上最も4コーナーで後ろから差し切った馬となった。
横山武史騎手の騎乗も、冴え渡った。
外目を意識していたとのことだが、難しい最内の1番枠スタートから、うまく後方に下げて外目のコース取りに成功。
さらに、勝負どころで溜めに溜めて、その末脚のすべてを引きだした。
その騎乗は、どこか覚醒の香りがした。
父キタサンブラックは、イクイノックスに続く大物を輩出。
そして社台ファームは、昨年のスターズオンアース、アスクビクターモアに続いて、2年続けてのクラシックホースを送り出した。
混戦といわれた皐月賞だったが、終わってみれば同馬の強さが際立つ結果となった。
これで、3戦3勝。
さて、ダービーである。
コーナーでポジションを上げるのに苦労していたところを見ると、東京に変わるのは好材料にしか見えないが、はたして二冠達成なるか。
2着、タスティエーラ。
4コーナーでは、同馬が勝ったと思わされた。
それほどに、松山騎手の完璧ともいえる騎乗だった。
ただ、一頭だけ前にいたのが、不運だったとしか言いようがない。
父サトノクラウンもこうした渋った馬場の鬼だったが、同馬もそれを引き継いでいるように見える。
適性を考えると、東京よりは中山という感は否めないが、それでもその先行力を武器に、ダービーでも期待したい。
3着、ファントムシーフ。
メタルスピード、ショウナンバシットとの追い比べを制しての3着。
こちらも、ルメール騎手のエスコートが光った。
序盤、そして3コーナーのコース取りから、できることはやっての3着といった印象。
こちらは東京替わりは好材料に見えるが、ダービーでの逆転を楽しみにしたい。
50年ぶりの重馬場を切り裂く、驚愕の大外一気。
2023年皐月賞、ソールオリエンスと横山武史騎手が制した。
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