1.レース・出走馬概要
府中の5週連続GⅠを締めくくるのは、春のマイル王決定戦・安田記念。
短距離馬、マイラー、そして中距離の精鋭たちが、東京芝1600mを舞台に激突する。
枠順による有利・不利が比較的少なく、スピードの絶対値と持続力、そして底力を問われるタフなコース。
過去にはヤマニンゼファー、タイキシャトル、モーリスといった超一流のマイラーから、府中の女王・ウオッカの連覇があった。
2023年は、各路線の精鋭18頭が集結。
前年の覇者、ソングライン(牝5、美浦・林徹厩舎)。
鋭い決め手を武器に制した昨年の同レースを制し、この春は骨っぽいメンバーの揃ったヴィクトリアマイルを制し、マイルGⅠ2勝目を挙げた。末脚の切れ味はメンバー屈指であり、東京のマイル戦は6戦4勝2着1回と相性のよい舞台。戸崎圭太騎手とともに、GⅠ連勝成るか。
昨年秋のマイル王、セリフォス(牡4、栗東・中内田充厩舎)。
3歳にしてGⅠマイルCSを制した俊英、秋春マイルGⅠ連勝がかかる一戦。今年3月にドバイターフに挑むも、初めての1800m戦の影響もあったか5着に惜敗。本来のマイル戦に戻って、その末脚を炸裂させるか。鞍上は前走に続いてD.レーン騎手。
この安田記念で初のマイル戦に出走する、ジャックドール(牡5、栗東・藤岡健一厩舎)。
前走の大阪杯では、武豊騎手と芸術的なラップで逃げ切り勝ちを決め、念願のGⅠタイトルを獲得した。400mの距離短縮となるが、名マイラーだった父・モーリスの血が騒ぐか。鞍上は前走に続き、武豊騎手。
白き女王、ソダシ(牝5、栗東・須貝尚介厩舎)。
稀代のアイドルは、前走ヴィクトリアマイルでソングラインの末脚に屈して連覇ならずの2着。ただ、着差はアタマ差で、改めてマイルでの能力の高さを示した。今浪隆利厩務員の定年が迫る中、歴代の名牝と並ぶGⅠ4勝目を飾ることができるか。鞍上は川田将雅騎手に乗り替わり。
前走、読売マイラーズCで久々の勝利を挙げたシュネルマイスター(牡5、美浦・手塚貴久)。
3歳時にNHKマイルC、毎日王冠を制したが、その後はマイルGⅠで2度の2着など勝ち切れないレースが続いた。前走では、後方待機からこの馬らしい鋭い末脚を披露して勝ち切った。鞍上は引き続きC.ルメール騎手。
悲願のGⅠ制覇に挑む、メイケイエール(牝5、栗東・武英智)。
1番人気に支持された高松宮記念は12着と大敗、フレグモーネによりヴィクトリアマイルを無念の回避。思うようにならぬ2023年だが、池添謙一騎手とともに悲願のGⅠ制覇を果たせるか。
さらには、昨年の2歳GⅠ朝日杯FSを制したドルチェモア(牡3、栗東・須貝尚介厩舎)、読売マイラーズCで強い競馬を見せたガイアフォース(牡4、栗東・杉山晴紀厩舎)など、当代の一流マイラーが揃った一戦となった。
2.レース概要
全国的な荒天により前日の土曜日は不良馬場でのスタートも、馬場コンディションは徐々に回復。当日は良馬場まで回復しての開催となった。
スタートで1枠の2頭、ナランフレグとメイケイエールが後手を踏む。
予想通り外からウインカーネリアンがハナを奪い、ジャックドールとソダシはその後ろにつける位置取り。
その一列後ろは好枠のダノンスコーピオンとセリフォスが並ぶ。
中団外目に大外から発進のソングライン、その内にガイアフォース。
出遅れたメイケイエールも徐々に押し上げて中団内目を追走。
ナミュール、ソウルラッシュ、シュネルマイスターあたりは後方から末脚に懸ける態勢。
半マイルは46秒ジャストと、平均ペース。
ウインカーネリアン先頭のまま、直線へ。
それを交わしてジャックドールが先頭に立ち、内の狭いところからセリフォスが抜け出さんとする。
それを外からソングラインがまとめて交わす。
さらに外からシュネルマイスターが脚を伸ばすも、届きそうにない。
ソングライン1着。
2着にセリフォス、3着に差してきたシュネルマイスターが入った。
3.各馬戦評
1着、ソングライン。
ヴィクトリアマイルからGⅠ連勝、そして昨年に続いての安田記念連覇。
グレード制導入以降では、ヤマニンゼファー、ウオッカに続く3頭目となる安田記念連覇となった。
栄枯盛衰の激しい短距離戦線において、2年続けて東京マイルのGⅠを勝つのは、あらゆる意味で難しいが、それを成し遂げるだけの力を秘めていた。
ヴィクトリアマイルから中2週となる安田記念の連勝は、2009年のウオッカしか成し遂げていない厳しいローテーションだが、それもクリア。
この骨っぽいメンバーの中で、力が一枚抜けていたと言わざるを得ない。
大外からの発走で、スムーズにレースを運んだ戸崎騎手の手綱も、前走勝利から自信を持って乗っているように見えた。
振り返れば、昨年の秋には陣営がアメリカのBCマイルに挑戦も検討していた逸材。
それだけの根拠があったのだろう。
これでマイルGⅠ3勝。
秋、また海外遠征の可能性はあるのだろうか。
いずれにせよ、「新・マイルの女王」の次走を楽しみにしたい。
2着、セリフォス。
好枠からスムーズにポジションを取り、正攻法で前を交わしにいく競馬。
言うは易し…の典型だが、それを難なくできるあたり、「乗れている」レーン騎手の手綱捌きは見事だった。
折り合いもスムーズで、距離短縮が好影響だったようにも思う。
直線、インで狭くなりそうな場面があったが、進路を確保してからの伸びは素晴らしいものだった。
馬場状態を考えると、内を通って伸びてきたのは非常に強い競馬だった。
ただ、後ろに1頭、想定以上に強い馬がいた、というような印象。
いずれにしても、国内のマイル戦ではトップクラスの脚力を持つことを、改めて証明した。
3着、シュネルマイスター。
突き抜けられる力関係ではないならば、自分の競馬に徹する。
ルメール騎手の乗り方からは、そんな声が聞こえた。
混戦のなか1番人気に支持されたが、ルメール騎手はそう見ていなかったように思われる。
この馬の位置取りが活きる前傾ペースにはならなかったものの、それでも3着に差してくる脚はさすが。
前走で久々の勝利を挙げたが、もう一度その末脚が大舞台で輝くことを期待したい。
連勝、そして連覇の女王。
2023年安田記念、ソングラインと戸崎圭太騎手が制した。
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