息子を連れてきているのか。
それとも、息子に連れてきてもらっているのか。
哲学的な問いについて考えながら、いつものバンテリンドームへの道を歩く。
梅雨の合間のような、曇りの空模様。
蒸し暑さを感じる風が、いよいよ名古屋の夏の到来を感じさせる。
交流戦も終わり、再開したリーグ戦。
今日は、東京ヤクルトスワローズを迎えての3連戦の2戦目。
昨年、セ・リーグを制したヤクルトだが、今年は苦戦が続いている。
我が中日ドラゴンズは…語るまでもなく。
ホームであるバンテリンドームでの勝率が、なんと3割台。
10回観戦に行って、4回も勝てない計算になる。
今日は、その3の日なのか、それとも7の方の日なのか。
それにしても。
野球観戦とは、不思議なものだ。
プロのプレーを生で観られるだけで、十分楽しいというファンも、もちろんいるのだろう。
けれども、やはり贔屓のチームが勝つことを、願わずにはいられないものだ。
しかし考えてみれば、リーグを独走で優勝するような強いチームでも、勝率6割がやっとだ。
10回観に行って、4回は負ける。
これが、たとえばアーティストのライブならば、こんなことはない。
大好きな歌手のライブを観に行って、10回中4回はがっかりすることなんて、ないわけで。
そう考えると、野球観戦とは実に、賭けるコストと返ってくるリターンが合わないエンタメなのかもしれない。
それなのに、なぜ人は野球に惹かれるのか。
この日は、スワローズのマスコット「つば九郎」が名古屋に出張。
ドラゴンズのマスコットたちとともに、試合前からにぎやかだ。
試合前には、お決まりの静止画芸も見せてくれて、球場内を沸かせてくれた。
いつものライトスタンド、手を叩き、声をあげての応援。
誰かにならなくてもいいし、誰にもならなくてもいい。
この3万5千人のなかの一人でいれば、いいのだ。
それが、心地よい。
7回表、スワローズの「東京音頭」の指揮(?)を取る、つば九郎。
レフトスタンドに、虹色の傘がいくつも開く。
「我がチーム」の歌を、みんなで歌う。
応援って、いいなぁと、しみじみと感じ入る。
試合は、両チーム1回に1点ずつを取り合ってから、無得点が続いた。
どちらに傾くかわからない針が、ずっとふらふらとしているような、そんな展開が続く。
不確実で、先が見えないものだからこそ、目が離せないのかもしれない。
いくら、勝率3割台だろうと、今日勝つか負けるかは、二つに一つでしかない。
人は、結果がわかっていないものにこそ、惹かれる。
不確実なればこそ。
そこに、人は惹かれる。
果たして、7回裏に石橋康太捕手の2ランホームランが飛び出し、中日がそのまま逃げ切った。
ピッチャーに有利な魔境・バンテリンドームで、ホームランを観ることができたのは、実に僥倖だった。
息子も、ご満悦だったようだ。
私の大好きなヒーローインタビュー。
謙虚な受け答えに終始する石橋捕手の姿に、これからのさらなる活躍を祈らずにはいられない。
不確実なればこそ。
もちろん、それも野球やスポーツエンタメの持つ魅力の一つであるのだろう。
けれども。
それ以上に、やはり私たちは誰かを、応援したいのだろう。
我がチーム、推しの選手たち。
誰かに期待して、時に失望して、そして歓喜して。
実に、ファンとは身勝手なものだ。
それでも。
また私は、あのライトスタンドを訪れようと思うのだ。
誰にもならなくてもいい、そして精一杯の声援を贈れる、あの場所に。