挫折や失敗、蹉跌といった谷底から這い上がってきた人は、感動を与えます。
それは太古の昔、獲物を狩りに危険な土地に出かけた者が無事に帰還したときの、それを待っていた者たちの喜びと安堵という、人類の原初の記憶が呼び覚まされるからだと私は思うのです。
全く根拠も何もありませんが、何となくそんな風に感じます。
そんな復活、帰還を果たした一頭のサラブレッドに寄せて綴ってみたいと思います。
1996年、第一回秋華賞。
エリザベス女王杯の古馬への解放にともない、同年新設された4歳牝馬三冠の最終戦。
フランス生まれの天才少女は、春の蹉跌からの捲土重来を期した。
ファビラスラフイン。
その春、新馬戦から負けなしの3連勝で挑んだG1・NHKマイルカップで14着と大敗。見えない疲れか、若さが出たのか、血の限界か、それとも。確たる敗戦の理由は分からない中で、傷ついた翼を再び羽ばたかせる力を磨いた。
端正な容姿で人気を集めた男は、春の事故から復帰してきた。
松永幹夫騎手。
同年3月、調教中の落馬事故に遭い、左腎臓の半分を摘出する大手術を受ける。半年近くのリハビリを経てようやく復帰後、初めてのG1レースがこの秋華賞だった。
蹉跌と事故からの復活を期す人馬に、ファンは5番人気というどちらともつかない評価を与える。
だが、第一回となる秋華賞のゴールを先頭で駆け抜け、左手を挙げたのは、ファビラスラフインと松永幹夫騎手だった。
おめでとう。
そして、おつかれさま。
ここまで長かったよね。
爽やかなる、復活の勝利。
こんな勝利が見られるから、競馬がやめられない。
2017.10.15
ファビラスラフインと松永騎手、鮮やかな勝利でした。
次走に3歳牝馬ながらジャパンカップに果敢に挑戦、勝ったシングスピールと火の出るような直線の叩き合いを演じて2着入線、その潜在能力の高さを証明しました。
負かした馬の中には、凱旋門賞馬・エリシオ、日本馬総大将・バブルガムフェロー、先輩女傑・ダンスパートナーなどのメンバーが含まれていました。
個人的には、この秋華賞は私が中学生のときに新設されたGⅠで、新しいGⅠができるとワクワクしたのを覚えています。
気付けばその秋華賞も今年で22回目。どうりで私も年を重ねるわけです。
振り返れば、時が過ぎるのは本当に早いものです。
そんな回顧もしながら、どうぞごゆっくりお過ごしください。