大嵜直人のブログ

たいせつな何かをなくした心に、ともしびを。

白、青、そして赤色。 ~2021年秋華賞 回顧

空が澄んで高くなり、キンモクセイが香りはじめ、実りの食材が並んでいるのを見かけるようになると、いよいよ秋本番を感じさせる。
天高く、馬肥ゆる秋。

牝馬三冠の最終戦を飾る秋華賞。
エリザベス女王杯の古馬への開放にともない、1996年に創設されたこのGⅠは、爽やかな秋の香りを想起させる。

その1996年の秋華賞を制したのは、外国産馬のファビラスラフインだった。
NHKマイルカップで惨敗、骨折が判明と失意の春から、休み明け直行での戴冠。同じく大怪我から復帰していた松永幹夫騎手とともに、復活の勝利を挙げた。
返す刀のジャパンカップで、あのシングスピールの2着に食い下がった雄姿が懐かしい。

その第1回から四半世紀を経て、2021年の今年は史上初めてとなる阪神競馬場での施行となった。
京都競馬場回収に伴う代替開催、阪神内周り2000mでの開催に、充実の夏を越した3歳牝馬16頭が集う。

桜花賞を制した白き女王・ソダシは、オークスで大敗したものの、夏のGⅡ札幌記念で歴戦の古馬を相手に圧勝し、この秋華賞に臨む。
樫の女王・ユーバーレーベンは、一時脚不安が出たこともあり、オークスからの直行で戴冠を狙う。
春の二冠を制した両馬が顔を揃え、さらに超良血馬・アカイトリノムスメやアールドヴィーヴルも虎視眈々。
そしてGⅢ紫苑ステークスで強い勝ち方をしたファインルージュに、GⅡローズステークスを制したアンドヴァラナウトのトライアル組も加わり、秋の仁川を舞台に三冠最終戦は彩り豊かに幕を開ける。

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戦前の予想通り、エイシンヒテンと松若風馬騎手がハナを主張する。
絶好の4番枠からのソダシと吉田隼人騎手は、出負け気味ながらも押して番手に収まる。

そのソダシの後ろ目の位置取りを取ろうとしたのは、9番枠のアンドヴァラナウトと福永祐一騎手。春の桜花賞では、8番人気のファインルージュを同じようにソダシの後ろにピタリと付け3着を確保したが、その再現と逆転を狙うか。
今回そのファインルージュを駆るクリストフ・ルメール騎手は、14番枠を考慮してか、無理をせず中団あたりからの追走。

一方、同じ外から出た松山弘平騎手のアールドヴィーヴル、そして戸崎圭太騎手のアカイトリノムスメも押して先団に加わっていき、先団を形成する。
12番枠からのオークス馬・ユーバーレーベンとミルコ・デムーロ騎手は、最後方から2番目の位置取りで脚を溜める態勢か。

向こう正面に入り、秋の仁川の風を背に受けて疾走する16頭。

最後の栄冠に向けて逃げるエイシンヒテンは番手のソダシを2~3馬身離して、前半の1000mを1分1秒2で入る。前日の夜に雨があったとはいえ、良馬場でこの時計は、前有利のペースに思われた。

異変は、3コーナー過ぎだった。
勝負どころに差し掛かり、ソダシの吉田隼人騎手の手が激しく動く。

しかし、そのアクションとは裏腹に、手ごたえはあまり残っていなさそうで、先頭のエイシンヒテンに並びかけるのにも苦労しているように見えた。

その後ろからアカイトリノムスメ、アールドヴィーヴルが差を詰めにかかり、さらにその一段後ろにいたアンドヴァラナウト、アナザーリリックと津村明秀騎手も動く。
さらに、そのアナザーリリックの外を回して、ファインルージュもスパートをかける。

迎えた直線、エイシンヒテンが粘る。
ソダシは懸命に吉田隼人騎手が追うが、伸びない。先頭のエイシンヒテンに離され、後続に呑み込まれていく。

その外から、アカイトリノムスメが脚を伸ばす。
さらに大外からファインルージュも飛んでくる。
進路を内に取ったアンドヴァラナウトも伸びてくる。

残り100mを切って、エイシンヒテンを競り落としたのは、アカイトリノムスメ。
大外から襲い掛かるファインルージュの末脚を封じ、そのまま三冠最後のゴールに飛び込んだ。

2着に追い込んだファインルージュ、3着にアンドヴァラナウト。

2021年牝馬三冠、最後の一冠は、アカイトリノムスメが制した。

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1着、アカイトリノムスメ。
三冠牝馬である母・アパパネと、このレース史上初の母娘二代制覇の偉業を達成した。金子真人オーナーにとっては、父・ディープインパクトとあわせて、ともに所有した三冠馬同士という、夢の配合でのGⅠ勝利は圧巻である。

前走・オークスでテン乗りだったルメール騎手から、デビューから3戦手綱を取った戸崎騎手に手綱が戻り、戸崎騎手らしい正攻法での競馬が活きた形だった。

外枠から出してポジションを取りに行って、アールドヴィーヴルの後ろでじっと抑えて、前のソダシの手応えが怪しいと見るとロングスパートを敢行。この思い切りのよさで、アカイトリノムスメの力を素直に引き出した。

春は桜花賞4着、オークス2着と惜しい競馬が続いていたが、そもそもオークスはソダシを目標にしての結果とも見えるし、そういった意味では世代トップクラスの才能が、ようやくストレートに花開いたと見るべきか。それを導いた鞍上が戸崎騎手というのも、どこか嬉しく感じる。見事な騎乗での最後の一冠奪取、おめでとうございます。

そして、管理する国枝栄調教師の手腕もまた、お見事の一言。
近年の秋華賞は、2018年アーモンドアイ1着、19年カレンブーケドール2着、20年マジックキャッスル2着、そして今年のアカイトリノムスメ1着と、とても関東勢とは思えない抜群の成績。輸送のある不利な条件を克服してしまうのは、やはり厩舎の底力か。

さて、この後はエリザベス女王杯か、それとも思い切ってジャパンカップか。
まだまだ成長過程にあり、距離はもう少し伸びてもよさそうに見えるので、古馬に向こうに回してのさらなる活躍を楽しみにしたい。

2着、ファインルージュ。
スタートは無理してポジションを取りに行かず、自然に馬の気に任せて中団あたりをキープ。
前にサルファーコスモスを置く形で、道中は淡々と。3コーナーで、前述の通りアカイトリノムスメにあわせて、アナザーリリックの外に進路を取ってスパート。

最後はいい脚を伸ばしてきたが、勝ち馬に半馬身届かずの2着だったが、こちらも世代上位のエンジンを見せてくれた。

外枠をうまく立ち回り、先行馬有利のペースの中、脚を溜めたルメール騎手の騎乗もまた見事だった。
ただ、やはり後ろから行く分、後出しになってしまうため、前が走ってしまうと捕まえられないのは仕方がないところか、

父・キズナの産駒の初GⅠ制覇はおあずけとなったが、同馬をはじめ多彩な産駒が活躍しているので、近いうちにその瞬間が訪れるだろうか。

何より、今回見せてくれたようにレースセンスもあり、世代間を越えての戦いが楽しみになった。
距離を伸ばすのか、それともマイル路線に行くのか、楽しみに見守りたい。

3着、アンドヴァラナウト。
積極的にポジションを取りに行き、絶好と思われたソダシの後ろを確保できたと思われたものの、向こう正面ではもう一段後ろの位置取りになっていた。
さらには、その目標としていたソダシが早々に手ごたえが怪しくなったことで、戦前の思惑が大きく狂ってしまった形になったか。
オークスでソダシをマークしていた、アカイトリノムスメと似たような展開だったともいえる。

さらには、勝負どころで勝ち馬とアールドヴィーヴルが同時に動いていったことで、外から蓋をされ、内に進路を切り返したことも痛かったか。

とはいえ、福永騎手としては、実力最上位にソダシを評価していたからこその位置取りや道中、仕掛けのタイミングであり、やりたい競馬はある程度できたと言えるのだろう。
それができずに敗れることも当たり前に起こる中、意図した競馬を遂行する福永騎手の手腕は、やはり見事だった。

とはいえ、馬にとっては初めてのGⅠで3着と、一線級で走ってきた相手に臆さず、素晴らしい競馬だった。これからさらなる成長を期待し、今回敗れた馬たちに逆転の機会を待ちたい。

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白く咲き誇った桜花賞馬、ソダシ。
青鹿毛の樫の女王、ユーバーレーベン。
そして秋華賞を制したのは、アカイトリノムスメ。

ハワイに生息する赤い鳥、「アカハワイミツスイ」を意味するアパパネの娘が、最後の一冠を制した。

白、青、そして赤。

彩り鮮やかに、2021年の3歳牝馬たちの走りは続いていく。

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