処暑を過ぎて。
雲の形が、変わった。
人知の及びのつかぬ怪物のような入道雲は姿を消し、
いつしか切れ切れになった秋の雲が流れている。
風が、澄んだ。
外気に触れた瞬間のうだるような熱気はどこにもなく、
どこか静謐さと諦念をはらんだ風が吹いている。
蝉が、消えた。
この世を謳歌するように響かせていた蝉たちの歌も、
日に日に澄みゆく空へ捧げる鎮魂歌のように。
夕闇が、濃くなった。
永遠とも思えた昼の長さと明るさは、
帰り道の暗さの驚きへと取って代わる。
夏が、終わる。
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夏生まれだからだろうか。
私は夏の終わりにいつも慄き、寂しさに震える。
どうして、わかっていたことなのに、こんなにも夏が終わると感傷的になるのだろう。
わかっていることと、
感じることとは、
何の関係もないのかもしれない。
わかっていることと、感じることには、何の脈絡もない。
理解と感情とは、善悪の彼岸のようだ。
そこには、深く広大な川が流れている。
だからこそ、人は感情を持つのだろうか。
その川に、架け橋を渡すために。
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久しぶりに日焼けした肩が、下着と擦れてひりひりと痛む。
懐かしい、痛み。
それでも、消えていく痛み。
往く夏を、私は惜しんだ。