大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

処暑を過ぎて。

処暑を過ぎて。

雲の形が、変わった。

人知の及びのつかぬ怪物のような入道雲は姿を消し、

いつしか切れ切れになった秋の雲が流れている。

風が、澄んだ。

外気に触れた瞬間のうだるような熱気はどこにもなく、

どこか静謐さと諦念をはらんだ風が吹いている。

蝉が、消えた。

この世を謳歌するように響かせていた蝉たちの歌も、

日に日に澄みゆく空へ捧げる鎮魂歌のように。

夕闇が、濃くなった。

永遠とも思えた昼の長さと明るさは、

帰り道の暗さの驚きへと取って代わる。

夏が、終わる。

夏生まれだからだろうか。

私は夏の終わりにいつも慄き、寂しさに震える。

どうして、わかっていたことなのに、こんなにも夏が終わると感傷的になるのだろう。

わかっていることと、

感じることとは、

何の関係もないのかもしれない。

わかっていることと、感じることには、何の脈絡もない。

理解と感情とは、善悪の彼岸のようだ。

そこには、深く広大な川が流れている。

だからこそ、人は感情を持つのだろうか。

その川に、架け橋を渡すために。

久しぶりに日焼けした肩が、下着と擦れてひりひりと痛む。

懐かしい、痛み。

それでも、消えていく痛み。

往く夏を、私は惜しんだ。

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