お控えなすって。お控えなすって。
手前、生国と発しまするは尾州は尾張の国にござんす。
尾張と申しても広うござんす…
…という仁義は切ったことがないが、私の生まれは尾張の国である。
その尾張の国の「一之宮」といえば真清田神社であり、その神社が鎮座する「一宮市」の地名もそこから来ていることを、恥ずかしながら最近知った。
その真清田神社を訪れたことがなかったのだが、ようやく参拝することができた。
京都に住む友人が、全く行ったことがない寺社仏閣、世界遺産が山ほどあると言っていたが、近いとそんなものなのかもしれない。
それは距離の問題よりも、タイミングなのだろう。
社号標と一の鳥居を望む。
この日は秋晴れの気持ちよい青空が広がっていた。
朝は寒かったのに、日中はすこし暑いくらいの陽気になって、ほんとうにこの時期に着る服の調整は難しい。
見事な楼門。
現在の真清田神社は太平洋戦争時の本土空襲で焼失したものを、再建したとのこと。
この楼門は、昭和36年に再建が完了したとのこと。
それから長い時間、この地の復興を見守ってきたのだろう。
門に掲げられた扁額は、聖武天皇のご宸筆とされる旧額を模したものだそう。
聖武天皇というところに、歴史を感じる。
ちょうどお昼くらいに訪れたせいか、参拝客もまばらで静かな時間が流れていた。
玉砂利を踏む音が、また心地よい。
御本殿の上の青空には、鳥が。
つくづく、神社には青い空がよく似合う。
御由緒によると、御祭神は「天火明命(あめのほあかりのみこと)」。
「瓊々杵尊(ににぎのみこと)」の御兄神であり、国土開拓、産業守護の神として、この地の隆盛を見守ってこられたそうだ。
境内にある神馬像。
御鎮座2,600年祭の記念に、昭和47年に建立されたと記されていた。
愛鷹社・天神社・犬飼社の三つの末社を奉祀した、三末社。
ここも静かで落ち着く空気が流れていた。
境内の神池の中にある、厳島社・八龍神社の鳥居。
この鳥居をくぐった参道が、最も心地よかった。
神池の中にかけられた、開運橋を渡って。
参道を黄色く染める落ち葉に、秋の深まりを感じる。
境内の摂社、服織(はとり)神社。
御祭神・萬幡豊秋津師比賣命(よろずはたとよあきつしひめのみこと)を奉祀する。
機織の神様であり、本殿の御祭神・天火明命の母神でもあるそうだ。
繊維業の街として発展した当地を、ずっと見守って来られたのだろう。
そういえば、私の母方の姓が「はっとり」だった。
稲作と織物で栄えた尾張の国の歴史の縦軸を、ずっと紡いできたことの証明なのだろう。
萬幡豊秋津師比賣命は別名を「棚機姫神(たなばたひめのかみ)」と呼ばれ、七夕伝説の「織姫」と同一ともされ、この地で最も大きなお祭りである「一宮七夕まつり」にミス七夕・ミス織物が参列し御衣奉献祭が斎行されるとのこと。
織物と、織姫の神さまに、静かに手を合わせて祈ってみた。
静かな境内に、鳥の声だけが響いていた。
ようやく訪れることができた尾張の国の一之宮は、どこまでも静かで、凛とした時間が流れていた。