日中は汗ばむくらいの陽気になってきたと思えば、朝晩はまるでこれから冬に向かうような冷たい風も吹く。
しまったはずのコートを引っ張り出したくもなるが、さりとて日中の陽気を考えると躊躇してしまい。
花冷えという言葉があるように、この時期の上着というのは悩ましい。
それでも。
心地よい風に、半袖で過ごせる季節は、もうすぐなのだろう。
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花冷えの中に、春の忘れもの。
名残の、桜。
もう今年最後だろうか。
今年は、長く楽しませてもらった。
いつになく、過ぎ行く春を惜しむ気持ちを強く感じるように思う。
それは、世相騒がしく落ち着いて花を眺める時間が持てなかったせいだろうか。
それとも、来年の春を、ことさらに待ちわびているからだろうか。
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人の世の輪廻のように、来年もまた、花は咲くのだろう。
そこに、意味もなにもない。
花は誇らず、意味も求めず、役に立とうともせず、
ただ、咲く。
そこに美しさや素晴らしさを貼りつけているのは、ただ見ている私の勝手な判断でしかない。
それは、誰かの何か、あるいは自分の中の何がしかを、醜く汚らしいと判断することの裏返しでもある。
陰陽あわせて一つであるなら、善悪の彼岸は、見ているこちらにしかない。
その彼岸を越えて。
ただ、花は咲く。
ただ、そこに「ある」。
それを見ている私も、そして、あなたもまた
誇らず、意味もなく、役に立たなくとも。
ただ、そこに「ある」。