10月に入って、また空の色が少し変わったようです。
毎年この時期には、台風が一つ通り過ぎると確実に空気の色が変わる、そんなことを思います。
大気をかき混ぜ、大量の水を南の海から運んでくるほどの、膨大なエネルギー。
その力には、いつも畏怖の念を抱きます。
まだ私の住んでいる中部地方は、それほど多くの台風が上陸するわけではないのですが。四国、九州、沖縄にお住いの方からすると、また台風に対して違った感慨を持つのでしょうか。
先週末に、一つ台風が通り過ぎていき、また秋の深まりを感じます。
気づけば、秋分も末候、水始涸(みずはじめてかるる)。
稲が頭を垂れ始めた田んぼの水を抜き始めるころ、あるいは、草木が枯れた色になりはじめるころともいわれます。
あの夏の暑さと生命力はどこへ行ってしまったのか、寂寥感のある季節になっていきます。
騒がしく鳴いていた蝉の声は、いつしか秋の夜を彩る鈴虫の演奏に変わり。
雷とともに訪れていた夕立は姿を消して、潤いは少しずつ霧散していくようです。
そんな中で、咲く花は少しずつ変わっていくようです。
秋の空にあわせたような、そんな花の色。
吹く風の感触と、その色が合っているように感じます。
歩きながら、花を眺めていると、ふと「秘すれば花」というフレーズが浮かびます。
秘すれば花なり
秘さねば花なるべからず
能の大家、世阿弥のことばだったでしょうか。
季節は徐々に過ぎゆき、冬に向けて隠れるいのちも多くなるようです。
夏の間に騒がしかった虫たちも、隆々と伸びていた草々も。
卵や種子に、次代への願いを託し、消えていきます。
けれど、その静かな、秘された時間こそ、花なのかもしれません。
なにはともあれ、一年で最も気持ちのよい時候の一つである、今日この時間を愛でたいものです。