日に日に春らしさを増してきたようで、今日は汗ばむような陽気でした。
4月中旬並みの気温だそうで、いままで手放せなかったコートもいらないくらいです。
時候は「啓蟄」。
七十二候では「桃始笑(ももはじめてさく)」、桃の花がはじめて咲くころ。
花が咲くことを「笑う」と表現する感性は、とても美しいものです。
私のとても好きな時候のひとつです。
陽気に誘われて外を歩いていると、白い花が目に入ります。
ユキヤナギが、微笑んでいました。
あともう少ししたら、この一面を、白く染め上げるように咲き乱れるのでしょうか。
この小さな白い花を見ると、本格的な春の訪れを感じます。
はらはらと、白い吹雪のように散る様もまた、雅なものです。
近くでは、白梅が笑っていました。
もう満開でしょうか。
年明けの寒さ厳しいころに、紅梅を見かけたよろこび。
暖かな春を迎えて、この白い梅が咲き誇るのを見るのもまた、大きな喜びです。
それにしても、春の空の色というのは、特徴的ですよね。
この輪郭のぼやけた色は、この時期だけにしか見られないように思います。
どこまでも透き通っていた、冬の凛とした空気。
それが、春が訪れるとぼやけてくるのは、なぜなのでしょうか。
そして、白木蓮が、満面の笑みを浮かべておりました。
しばらく見ないうちに、あっという間に咲いていました。
なんと高貴で、美しい姿。
しばし、見惚れておりました。
木蓮は、特に古くから存在している被子植物の一つだと聞いたことがあります。
太古の昔から、変わらずこの姿だったとも。
その花は、どれだけの記憶を宿してきたのでしょうか。
咲きかけの花弁。
ほんの1か月ほど前は、あんなに硬そうだった蕾が、こんなにもやわらかで、優美な姿に変わる。
ほんとに目を凝らすだけで、奇跡はすぐ近くにあるのかもしれません。
実に美しい花弁の姿。
そっと引き寄せて、その香りを。
私はもともと嗅覚が鈍いうえ、ここのところの花粉のせいで、鼻の調子がよくなかったのですが、そんな私でも、この香りを楽しむことができました。
嗅覚は、いちばん本能的な部分に近いと聞いたことがありますが、「香り」というものの表現は、難しいですね…
香りを表現するための言葉というのは、少ない気がします。
本能的なものは、言語表現からは遠いところにあるのでしょうか。
春の空に、満面の笑みを浮かべる白木蓮。
この時期だけのギフトを、楽しむことができた春の日でした。