梅雨の中休みだろうか、晴れ間が広がる。
陽の光の強さは夏を思わせるが、空に広がる色は、どこかまだ優しさを残していた。
頬を撫でる風もどこか優しく、心地よい新緑の季節の忘れ物のようだ。
名残を置き土産にしながら、季節は流れていく。
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川沿いの紫陽花は、今が盛りのようだ。
紫陽花は雨に濡れる姿がよく似合うが、晴れた空の下のそれも悪くない。
このあたりであまり見かけない、濃い紫の花弁。
小さな小さな花が集まって、紫陽花を形づくっている。
自然の織りなすフォルムの美しさに、しばし見惚れる。
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ふと甘い香りに足が止まる。
魅惑の甘い香りを放つ、白い花。
クチナシの花だろうか。
以前にも書いたような気がするが、私は五感の中で「嗅覚」が最も鈍いようだ。
そんな私でも明確に気付くくらい、強烈な甘い香り。
香り、匂いというのは不思議だ。
たまたま味覚に近い感覚があるから、このクチナシの香りは「甘い香り」と表現できるのだろうが、香りを言語で表現することは、他の感覚に比べて難しいように感じる。
それだけ、人の本能的な部分に訴えかける作用が大きいのだろう。
クチナシの花。
春のジンチョウゲ、秋のキンモクセイと並んで、「三大香木」と評されるくらい、魅惑の香りを持つ。
しばらくその場に立ち尽くし、「いま」を味わう。
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マスク生活が当たり前になると、どうしても嗅覚がおかしくなる。
熱中症の懸念もさることながら、五感の中で特別な感覚である嗅覚が塞がれるというのは、あまりよろしくないのだろう。
素足で、土の上を歩くように。
素手で、樹木に触れるように。
ときには、マスクを外して思い切り深呼吸を。
ときには、季節の香りを胸いっぱいに詰め込んで。