大嵜直人のブログ

文筆家・心理カウンセラー。死別や失恋、挫折といった喪失感から、つながりと安心感を取り戻すお手伝いをしております。

書評:根本裕幸さん著「戦闘力が上がりすぎてひとりで頑張っているあなへ 1日5分、スキマ時間にととのう本」に寄せて

私がカウンセラーとして師事しております、根本裕幸師匠の新著「戦闘力が上がりすぎてひとりで頑張っているあなたへ 1日5分、スキマ時間にととのう本」(ハーパーコリンズ・ジャパン出版、以下「本書」と記します)の書評を。

1.本書の概要

本書のキャッチコピーには、「たちあがるな武闘派女子」とあります。

「武闘派」とは物騒ですが、その言葉はこんな女性を指します。

「自立的で、情に厚く、曲がったことが嫌いで頑張り屋。見た目はとても女性的だけど、中身は男っぽい」

本書 p.2

自立的でいろんなことを一人でできる器量を持ち、義と情に厚い。

それでいて、内面には、とても豊かな情緒と感受性を持っている、そんな魅力的な女性たち。

しかしそれゆえ、時にその相反する部分がケンカしてしまうことで、いろんな問題を抱えやすくなったりもします。

社会的には立派に自立して男たちを従えている女性でも、心の中には繊細で感受性が豊かな少女がいます。

情に厚く、誰かのために頑張ってしまう性質から体を壊してまで仕事をしてしまったり、恋人への愛情が大きすぎて相手をダメ人間にしてしまったり、情熱を燃やすために難攻不落な相手を追いかけてしまったり、ほんとうは強がっているだけなのにそれを分かってもらえなくて寂しい思いをしたり。

本書 p.203,304

そうした「武闘派女子」の心がゆるみ、今日一日を笑顔で過ごせるようにと著されたのが本書です。

心理学に沿った、心が軽くなるためのヒントを、わかりやすく平易な言葉で説明されています。

見開き2ページで一つのテーマを扱っているため、スキマ時間でも読めますし、ぱっと開いたページをその日の参考にする、なんて使い方もおもしろそうです。

2.「使える」心理学

さて、そんな本書のすごいところは、「使える」心理学である、ということ。

おおよそ、「学」と名のつくものは、それを知ること自体が目的になってしまうことがあります。

もちろん、学ぶことが好きな人にとっては、それは無上の喜びです。

「サラブレッドは、17世紀末から18世紀に生まれたダーレーアラビアン、ゴドルフィンアラビアン、バイアリータークという3頭を父祖に持つ。現代ではこのうちダーレーアラビアンを父祖に持つ馬が90%以上を占めるが、傍流ともいえるバイアリータークからの血を継いでいるのが、かのシンボリルドルフ、トウカイテイオーであり…」

という知識を得ることは、とても楽しいように笑

しかし、こと心理学となると、それを学ぼうとする方の多くは、「それを使って、自分のよりよい生のために活かしたい」という目的の場合が多いのではないでしょうか。

私自身も、そうでした。

「いまの現状を、なんとかしたい」

「もっと笑顔で、楽しく毎日を過ごしたい」

「なぜこんなにもしんどいのか、その原因を知りたい」

そんな想いから、はじめて心理学に触れたことを思い出します。

癒着、コミットメント、投影、アカウンタビリティ、許し、犠牲…

いろんな心理学の考え方や理論がありますが、「それをどんな場面でどう使うと、自分のためになるのか」という点が、何よりも大切でした。

もし、同じような想いから、心理学に触れた方や、学びたいと思っている方にとっては、本書は最上の手引きになると思います。

私も学び、それに助けられてきた著者の心理学のエッセンスが、とても実用的で、分かりやすく書かれています。

本書では、心理学をベースに、仕事や人間関係でとても役立つ心の法則も多数紹介しています。

ぜひじっくり読み込んで使ってみてください。心理学は使ってナンボですから。

そして、楽に、自分らしく、笑顔で今日という日を過ごせるよう、活用していただければ幸いです。

本書 p.204

3.本書より ~苦手な人に出会ったら

そんな本書の内容から、少し引用してみたいと思います。

苦手な人を思い浮かべてください。

すぐ怒る人。何を考えているかわからない人。嘘つき。不潔な人。上から目線な人。自慢話をする人。干渉してくる人。正論ばかり言う人。

ふつうは「その人が悪い」と思うのものですし、そう考えて差し支えない人間関係もあります。でも、相手があなたと関わりが深く、重要な関係性にあるようでしたら、考え方を改めることをおすすめします。

 

あなたが苦手な人の持つそうした要素、じつは、あなた自身が持っていて、かつ、許していない要素なのです。

心理学用語ではシャドウ(影)と言います。生きられなかったもうひとりの自分、という意味です。

(中略)

つまり、自分が嫌ってい隠している要素をその人に投影しているために苦手に思うのです。

 

あなたが苦手な人は、あなたが隠しているものを教えてくれる人かもしれません。それは、その要素とちゃんと向き合いなさい、というサインでもあります。

本書 p.80,81

ここでは、「投影の心理」とそこから派生する「シャドウ(影)」という考え方を扱っているのですが、「シャドウとは…」と説明されても、なかなか頭に入ってこないものです。

けれども、「苦手な人との付き合い方」という切り口で考えると、引用文の具体例に当てはまる人は、すぐに思い浮かぶのではないでしょうか。

そうした人が、自分に教えてくれるのは、何なのか。

そして。その嫌っている部分と、どのように付き合っていけばいいのか。

実際の生活のなかで必要なのは、そういった視点だと思うのですが、それが実に平易な言葉で説明されています。

そして、ここがポイントだと思うが、「ふつうは『その人が悪い』と思うものですし、そう考えて差し支えない人間関係もあります」と書かれている点です。

「心理学は統計学」と言われたりもしますが、「こう説明すると、うまくいくことが多い」というものです。

「シャドウ」にしても、その見方が絶対に正しい、というわけでもありません。

ただ、その見方を採用すると、自分にとって得るものが大きければ採用してみて、その部分と向き合ってみてもいいのだと思います。

そうするかどうかは、読者自身に委ねられています。

そんなやさしさが、本書、ひいては著者の心理学には通底しているように感じます。

4.本書より ~感情的理解と許し

もう一つ、本書より引用をしてみます。

仕事が続かないのも良くないし、浮気をするのも良くない。子どもにいつも怒鳴ってしまうのも、部屋の片づけができないのも、夜中につい爆食いしてしまうのも良くないとわかってはいる……。

では、それをやめるにはどうしたらいいのでしょうか。

 

そうしたできごとは表面上のことと捉え、「枝葉」という見方をします。

「そんな夜中にたくさん食べたら太るし、体によくない」なんてことは百も承知ですし、幾度となくそんな自分を責め、変えようとしてきたでしょう。

 

表面的なことが意志の力で変えられないとするならば、原因は心のほうにあるといえるでしょう。そこで、枝葉から幹、そして、根、さらには土壌に目を向けていき、そちらを改善しようと試みるのです。

 

「なんでそんなことをするんだろう?」「なんでこんなことをしてしまったんだろう?」と思ったとき、その背景にある心理に目を向けてください。

そうせざるを得ない、そうならざるを得ない理由が必ずあるのです。

本書 p.140,141

私たちは、自分の意志で行動できると思いがちです。

もちろん、動かそうと思えば、右手の小指を思い通りに動かせます。

けれども、時に「ダメとわかっていても、してしまう」ことがあるのも、私たちの心の不思議さです。

引用文にあるように、いけないとわかっているのに、すぐに仕事を辞めてしまったり。

パートナーに意地を張ってしまったり。

あるいは、そんな自分を責めてしまったり。

結果として見える、そうした行動を見るのではなく、その根底にある感情や心理、あるいは観念(=土壌)といったものに目を向けてみませんか、というのがここのテーマです。

あなたの大切な人の行動を理解する意欲を持ってみてください。

本書p.141

ここで言われているのは、心理学でいうところの「感情的理解」と呼ばれるものです。

もちろん、「そんなん理解できない!」と思われるかもしれません。

けれども、「理解しようとする意欲」を持つことで、変わるものが確かにあります。

なぜ、あの人はそんなに不機嫌なのだろう。

なぜ、あの人がこんな行動をしなければいけなかったのだろう。

そのようにアプローチする態度が「感情的理解」であり、その先には「許し」があります。

カウンセリングのなかでも、中核的なテーマになることが非常に多いものです。

本書のなかでは、そうした中心的な概念たちが、このように平易な言葉で説明されています。

このように、一つ一つのテーマは、それだけで非常に深い意味を持つものです。

それが、見開き2ページに収まっていますので、1日に一つずつ、そのテーマに触れていくのも、面白いかもしれません。

5.「女性性の時代」を生きるためのバイブル

本書を通読していくと、心理学のエッセンスを学ぶことができます。

それは冒頭に書いたように、「武闘派女子」の方々が、日々を笑顔で過ごすための、ヒントになるものと思います。

そしてそれは、「武闘派女子」のみならず、この現代を生きるすべての人にとっても必要なバイブルのように思われます。

心理学の世界では21世紀は女性性の時代と言われます。だから、とても女性らしさを持った愛すべき武闘派女子が世にはびこるのはむしろ良い兆候だと思っているのです。

本書 p.204,205

女性か、男性のいずれかという選択や対立ではなく、お互いが共感と理解をしあう時代。

それは、女性と男性の間においてもそうなのでしょうし、自分自身の内なる女性性と男性性においても、そうなのでしょう。

そう言った意味で、本書が伝えている内容は、現代という「女性性の時代」を生きる人にとって必須科目のようにも感じるのです。

 

自分自身と大切な人への理解と共感を助け、自分らしい笑顔で毎日を過ごすこと。

それを手助けしてくれる著者の心理学のエッセンスにあふれている本書を、ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか。

〇著者のブログでのご紹介はこちら。

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〇10/19(木)19:30~ 著者によるオンライントークイベントもあります!

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ぜひ本書とあわせてご覧ください!