私がカウンセラーとして師事しております、根本裕幸師匠の新著「忙しすぎて辞める人。暇すぎて病める人。」(主婦の友社、以下「本書」と記します)の書評を。
1.本書の論旨
「暇」について考えることは、自分の人生を考えること
本書のタイトルが、独特ですよね。
「忙しすぎて辞める人。暇すぎて病める人。」
それぞれのベクトルは違うものの、「時間」あるいは「余暇」の扱い方に、心を悩ませている人といえそうです。
そのそれぞれの悩みに寄せて書かれたのが、本書であるといえます。
大きなカテゴリでいえば、本書は「時間」の扱い方についての実用書です。
けれども、それがテクニカルな方法論ではなく、マインドや在り方といったものに焦点を当てているのが、特徴といえそうです。
「効率的な時間術」や「最短の時間で結果を出す」というようなことにフォーカスした実用書は、それこそ星の数ほどありますが、本書はそういった意味で特異な実用書といえそうです。
そして、結論から先取りするならば、「主体的に時間とかかわっていくため」に書かれた本のようです。
それはとりもなおさず、自分の生を充実させ、自分らしく生きるための大切な要素であるからなのでしょう。
2.「暇」について、考えてみる
「暇」とは、何だろう?
さて、そんな本書はまず、タイトルにも出てくる「暇」についてを考えていきます。
カウンセラーである著者は、「忙しすぎて、心を病んでしまう人」によく出会うといいます。
そして、そういった方たちの一部は、忙しすぎて会社などを辞めていきます。
しかし、その忙しすぎる環境を辞めたことで、心の平穏を取り戻せたかといえば、そうでもないといいます。
その「辞めた」人が、多忙さから解放されて幸せになったかと言えば、必ずしもそうとは言えない現実がそこにあるのです。
確かに時間は大量に生まれ「暇」になるでしょう。しかし、その「暇」な時間を。自分を責めたり考えたりする時間に充ててしまい、何ひとつ前向きな気持ちになれない、という場合があります。
「本書」p.13
余暇が無い環境は、確かに人の心を蝕みます。
けれども、「暇」な時間があれば、それですべてが解決するかといえば、そうではないようです。
そこには、私たちの心の在り方が、大きくかかわってくるからです。
つまり、「暇」な時間があったとしても、それだけで幸せになれるわけではないのです。
「本書」p.14
「暇」な時間のとらえ方の違い
同じように、何もしない「暇」な時間があったとして。
私たちはその「暇」を、とても耐えがたいものとして感じたり、お金と労力を払ってでも手に入れたいものと感じたりします。
その違いを生むのは、その人が時間に対して、どんな「感情」を貼りつけているかによって、変わってくると本書はいいます。
私たちは、その「何もすることがない時間(=暇)」に対して、何らかの意味付けをします。その時間をネガティブに捉えるのであれば「退屈」だと感じます。
逆に、ポジティブな解釈をするならば、有意義な時間だと感じるのです。
「本書」p.19
どうやら私たちは、「暇」な時間にくっついてくる、「退屈」に代表されるネガティブな感情が、嫌いのようです。
面白いものですよね。
旅先で泊まった旅館で、ゆっくりとのんびり何もせず、ぼんやりしている時間。
当日の予定がドタキャンになって、何もせずに過ごしている時間。
それは、どちらも表面的には「何もしていない暇な時間」のように見えます。
しかし、その「暇」な時間が、私たちの与える影響は、まるで正反対のようです。
なぜ、「暇」をネガティブに捉えてしまうのか?
同じように見える、「暇」な時間。
しかしそれは自分の捉え方によって、とてもありがたいものになったりするし、その反対に、自分を蝕む毒になったりもする。
では、なぜ「暇」を、ネガティブに捉えてしまうのでしょうか。
本書では、「暇」をネガティブな感情と結び付けてしまいやすいケースとして、11の例を挙げています。
- ふだんから「やるべきこと」に追われている中、まれに余裕ができるとき
- やりたいこと・好きなこと・夢中になれなることが分からない、見つからないとき
- やりたいことがあっても、行動を制限されて満たされていないとき
- 目標を失っているとき
…などなど、心理的な側面から見た、「暇」をネガティブに捉えてしまうケースを、実例を挙げて紹介されています。
私も、かつてワーカホリックに働いていた時期がありました。
そのときは、「暇」な時間が、とても苦手でした。
手帳のスケジュールが、真っ黒になっていると、何か安心するのです。
だから、自分の仕事のみならず、周りの仕事も抱え込み、スケジュールを埋めていました。
しかし、休みの日が苦手でした。
自分から何かしようとしなければ、スケジュールは埋まらない。
しかし、自分が何をしたらいいのか、何がしたいのかが、分からない。
幸いなことに(?)、一年365日休みのない小売業に勤めていましたから、休日出勤をするわけです。
職場に行きさえすれば、何か仕事はある。
「暇」にはならない。
だから、安心するわけです。
けれど、ずっとその調子ですから、心身が休まる「暇」はないわけです。
はい、本書の11のケースのうち、多くが当てはまるような、そんな状態だったように思います。
思います、と過去形で書きましたが、いまでもその傾向は大いにあります…
いやはや、他人事ではありません笑
ポジティブな「暇」の使い方
「暇」をネガティブに捉えてしまう心理を、見てきました。
では、その逆に、ポジティブな「暇」の使い方とは、どんな使い方なのでしょう。
本書では、「暇」な時間を退屈せずに、充実した時間にすることができた人々の例が、4つ出てきます。
その「暇」な時間とのかかわり方、使い方は、4者それぞれです。
しかし、彼ら、彼女らに共通しているのは、「自分の軸を確立しており、日常的に主体的な行動をできている」ということです。
そして、「暇」をうまく使い、心の休息と充実を図ることができているようです。
「暇」を積極的に作り出し、その時間を心の充実のために使うことができれば、人生はより豊かなものになっていくでしょう。
つまり、「暇」は私たちの人生を充実させるためにとても大切な要素であると言えるのではないでしょうか。
「本書」p.48,49
3.「暇」を主体的に使うために
「暇」な時間を自分いじめに使わない
そのように、「暇」についての考え方と、それに付随する具体的なマインドを見てから、本書では「暇」と主体的にかかわる方法について述べられています。
まず、最もよくない、心が休まらない例として、「暇」になると自己嫌悪をしてしまうことが挙げられます。
ちょっと時間が空いたりすると、ネガティブな想いがよぎったり、自分を否定したり、いやなことを思い出したりして、一人反省会をしてしまう。
それは、心身を休めるどころか、相当に負担をかけてしまいます。
そもそも自己嫌悪が強い=自己肯定感が低い人は、「暇」な時間を「自分いじめ」として使ってしまうことが少なからずあるようです。
「本書」p.54
なぜ、せっかくの余った時間、「暇」な時間を使ってまで、そんな自分いじめをしてしまうのか。
本書では、その原因となる心理を、詳しくて見ていきます。
「後悔」、「罪悪感」、「無価値感」、「競争心と嫉妬心」、「過去への執着」…いずれも、名前を聞くだけでお腹いっぱいのテーマです笑
私がカウンセリングでお話を伺うなかで、非常によく出てくるテーマでもあります。
(ということは、私自身も抱えている問題ということは、内緒にしといてください笑)
そうした心理とその対処法が、本書では述べられています。
もちろん、これらのテーマは、一つだけでも非常に深堀りできるテーマですので、なかなかすぐになくなるわけではありません。
けれども、「そんな心理があるんだ」と知るだけでも、非常に大きな意味があると思います。
夢や目標を持つことに抵抗する心理
そうした「暇」をネガティブに使ってしまう心理を見た後で、本書はその逆に「暇」をポジティブに捉えるヒントが書かれています。
すなわち、「暇」を使って、自分のやりたいことをやるための考え方です。
具体的には、好きなことややりたいこと、もっと大きく言えば目標や夢を持つ、ということです。
「暇」な時間を、やりたいことや好きなことに使って「良い暇つぶし」をするためには、夢や目標を持つことが大切になります。
「本書」p.73
夢や目標があれば、それに向かってやりたいことが出てきて、それに「暇」を使うことができる。
言ってみれば、それは当然のことなのですが、さりとて、そうした夢や目標が見つからない、という悩みを抱えている人もまた、多いのではないでしょうか。
つい先日も、「好きなことがわからない」、「自分が何をやりたいのか、分からない」というお話をカウンセリングでお伺いしました。
本書では、そうした夢や目標を見つけられないときの、8つの心理的理由が述べられています。
- ずっと誰かの人生を生きてきた
- 感情よりも思考が優先の生き方をしてきた
- ずっと「やりたいこと」を禁止してきた
- 誰かに対する「怒り」や「復讐心」から夢や目標を持たないようにする
…などなど、夢や目標を持つことに抵抗する心理を、8つに分類しています。
上に挙げた例は、私が思い当たる節のある例です。当てはまりますねぇ…
そして、それぞれの心理に対しての、対処法が述べられています。
ちなみに、一番最初の「ずっと誰かの人生を生きていた」場合の対処法では、このように述べられています。
そんなときは改めて「自分軸」に意識を向けるべく、自分の気持ちと対話する時間を作るようにしていきます。
すでにお話したようにランチタイムに自分の意志を聞いたり、「私はどうしたいの?」という問いかけを常に自分に投げかけてみたりしていくのです。
「本書」p.84,85
日常生活の中で使える、変化を起こすヒントがもらえます。
4.自分のライフワークを描くために
「暇」という時間の考え方、捉え方。
そこに映し出される、自分自身の心理。
そして、その自分自身との向き合い方。
それらを見てきた上で、本書では最後に、主体的な時間管理術のヒントが述べられています。
そしてその先に、自分自身に合った「ライフワーク」を描くことができる、と。
日々の心がけ「自分軸」を確立し、心のメンテナンスでストレスを緩和していくと、「暇」な時間が現れたときに、楽しみを見つけられるようになってきます。
その延長に、私が”ライフワーク”と呼んでいる「自分らしい幸せな生き方」も見えてくるようになります。
ライフワークとは「仕事」だけでなく、「家族」、「パートナーシップ」、「趣味」、「友人関係」、「健康」などを自分らしい生き方に基づいてデザインする生き方のことです。
「本書」p.185
「暇」について、ここまで述べれてきた本書ですが、最後にたどり着いたのは、「自分らしい生き方」というテーマでした。
自分らしい生き方とは、どんな生き方なのか。
その生き方をデザインするための、いくつかの問いやワークが、紹介されています。
- 心地いい「仕事とお金」「パートナーシップと家族」「趣味」のバランスは?
- 長年の悩みや問題はどんなこと?
- あなたの墓標には、どんな言葉を刻みたい?
…などなど、ワクワクする問いから、ドキッとする問いや、ワークまで、自分らしい生き方をデザインするヒントとなる問いが、たくさん掲載されています。
深く自分と向き合い、自分らしい生き方=ライフワークを描けてくると、「暇」に対する捉え方も、変わっていきます。
もはや、「暇」な時間に退屈を覚えることなどなく、むしろ、その時間を確保するために敢えて「暇」な時間を想像するようになるかもしれません。
「本書」p.220
ライフワークを生きる先にある、「暇」な時間を楽しみに、一つ一つ、本書の問いやワークに答えてみようかな。
そんな風に感じさせられる、本書でした。
〇著者のブログでのご紹介はこちら。